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目とその目、見合せば。
折り返され、それのできない人のさだめ。
もしナルシッサスに湖なくば、
人の心は褐色に 澱み明日は白いまま。
されど鏡があればこそ
人は心を揺すりながら
かろがろと
....
夕暮れの会談に鶯が啼き
太陽は別れを宣告した。
私たちは、失いかけた腕のすき間から
明日の失望の全景を予感した。
暗くなり、
雨はミシンの糸を紡ぐ咽び泣きを聞いた。
かすれ声 ....
暗闇のなかを片輪の百足虫が走る。
背中は凍りつくように冷めたい。
十時が一番うつくしい、君、
髪はながいほうがよい、
鏡は嘘しかつきようがない、
だって彼には腹というものがな ....
雨傘よりも強く僕たちを刺戟するのは、
天よりも高い靴の響きである。
靴は沼地に奥深く喰いかかり、
森のなかは蛍の楽園を造形した。
知性は愚鈍の中に埋没し、
風はそれを助長した罪に ....
秋が咲いた 秋が咲いた
どの花よりもうつくしい秋が咲いた
春まいたたねがみのった
かわいい小粒のちいさなたねが
みのった みのった
かなしみの
さてこの気さえ狂わさん
く ....
外灯のない家路を辿っていると、ある家の玄関にひとりの女の黒い影が見えた。
それは私に手を振って、投げキスを数度した。
だがそれは幻だった。ただ壁に絡まった蔦をむしっているのにちがいなかった。 ....
さて君の心のうちは傷になるほどよくわかったが、
それでも君は奪えまい
その匂いと
ふたつの瞳
君のこしらえた憶い出は
思い出すほど麗しい
そして君にはおぞましい
晩年 ....
花が絶えたら 私は思う
私は幾日 生きたかしらと
北風が灯を消すように
闇が私を連れてった
雨が花びら流すように
夜が私を連れてった
こうして街の橋げたの
隅で花売る娘の ....
行け その細い径を通って
白銀の雨のふる 森のなか
あたらしい宝物の絡み合う蔓植物の
つまらない詩句の鎖を見て来い。
案外つまらない
つまらないものなのだ
それゆえに ....
薬の臭気が私の鼻をつまむ
私は奇怪な妄想に胸ふくらます
青空! 空はあおい
そのもとに灰色の飛行船が飛び交う
私の脳味噌の断片
爆発した心臓の破片
鮮やかな紅の紙吹雪が
....
光に飢えて
死んだ薔薇。
僕の{ルビ瞳=め}は唖になった。
食卓に赤い{ルビ染点=しみ}
ところどころに、
あの 暗い日の 思い出が
甦る。
ああ、与えてよ ....
夜風さすらう夕暮れに
秋はひとりで花を買う
辞書は窓辺でつまみ喰い
寂しさに 疲れあぐねて・・・
花篭は からげのままに
草わけて 進みゆく歩哨兵
やがて時計の喇叭 ....
あと四年若かったら、
僕は碇になって、港に沈んでいるだろう。
船をしっかり支えながら
壮大な出航式を待っただろう。
それはおだやかな海を渡って、
詩人という島まで、のんびり旅を ....
詩が何処へ誘うというのか、
行きつく処といえば、せいぜい
薔薇の砂か 酒瓶の底だろう
私達はいま この安宿で
たしかに褥のうえに居る
そうして眠る、嘘つきながら
夜 ....
灰色の空を{ルビ背景=うしろ}に
黒い背広を着た男、
街燈の、直立不動の寂しさに、
北風に、灯は揺れる・・・・・・・その昔、
この道を{ルビ通=かよ}った男が
そこに見た嘘の女を
....
暗い夜中と散歩した
あの思い出は忘れまい
空に一羽の白鳥が飛んでいた
躊躇うな、―やっていいんだ
機会は魂のなかに訪れる
うら若い{ルビ紳士=・・}の中におとずれる
....
蓮の隙から顔出した白鳥は
あてもなく
よすがもなくて
海の{ルビ底=そこへ}へ沈んでいった。
僕は窓からそれを見ていた。
暗い夕暮れの間奏曲、
こんどは死が
僕を覗い ....
私は赤い太陽をみた
それは
戦場か
酩酊か
醒めたくも
醒めやらぬ憂鬱の眠りのなかだった。
それは
文字どおり赤く巷を照らしていた。
神々しい輝き、
それゆえに街 ....
今日もまた日は西より出で東へ沈み
私の憶い出は汚れた鉄格子の窓を進む。
雲を破る白い太陽の光は
さびしく僕の感傷をあぶり出す。
この部屋に居る僕の心を
広場の噴水に残された少女の ....
道すがら、死体に出会う。
何か不思議なことがありそうだ。
虫どもの蝟集して、離散する
万華鏡。
夏の大気は、夕暮れの香水。
その{ルビ路傍=ミチバタ}のあかい華。
....
夢のような 心軽さで
私は窓辺にたっていた
黄色い{ルビ灯=あかり}が漏れていた
やみがたい 私の心のすき間から
疲れた{ルビ貴女=あなた}のしぐさのひとつひとつが、
....
白い鳩
{ルビ貴女=あなた}の首のしなやかさ
円柱を飾る髪の毛が 池のほとりで、
緑の{ルビ水面=みなも}に 映えては、揺れる
くろぐろと
おまえの胸を 見せびらかせる
....
白いかがやき!
光のなかで 男は
悲しみに暮れる。
薔薇はまっすぐに
男へ 伸びる。
救いの手!
その茎には棘がある、
まるで女の指のよう。
天空に 咲き誇る ....
宿命に、付き従おう
奴らと違う言葉の洪水
さも苦しげな木葉の{ルビ一群=ひとむれ}
秋、
情熱が去って
憂鬱がおとずれた。
灰色に淀んだ少年の目に、
おまえと、おまえ ....