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{引用=山里に出会ふ少女はひたすらに
   坂下り行き{ルビ畠=はた}のトマト赤し}



D展に出す絵のモチーフを探して
山地を旅していた
山里の道を歩いていくと
籠一杯のトマト ....
毬栗が黄緑色に膨らんで

山の稜線を彩つてゐる

棘の一本一本は張りつめても

刺々しさはなく

光と風と大気に丸く包み込まれて

和んでさへゐる

さうしてなほも ....
雨が降つてゐる
黄色地にピンクの花を咲かせた
美しい傘の乙女が行く


雨は 
乙女の傘に弾けるときだけ
ぱつと明るく輝く


車道を車がきて 
泥水を撥ね上げる
乙女は傘を盾 ....
◇寒い日


世界を圧縮したものが
新聞だ

さう信じてきた浮浪者が
新聞紙を丸めて火をつけた

世界よ
大きな顔をして
人を舐めるな

おまへは俺の手を
暖めることさへ ....
朝顔の 露に張りつめた花びらは
美しい
しかし 弄れば弄るほど萎れていく
ダイヤは研けば研くほど
耀きをます


あなたはどちらが真に
美しいと思ふだらう
いや 野暮な問ひは止め ....
蝶とむくつけき昆虫が

ごつちやになつて

吹き飛ばされて行く。

空中を一方向に

平行移動するやうに。



蝶はいつ飛躍をして

その流れから抜け出すだら ....
それは自然のなせる業にはちがひないが

梢からまつすぐ

命中するやうに頭に降つてきた木の実

重たく硬い木の実


何か不当な打擲を受けたやうで

穏やかではなかつ ....
 

街の猛犬が
路地猫を追ひかける
猫の尻尾に
口が届くばかりに接近した
その時
目の前を
轟然と特急電車がやつてきた
あはや犬は立止り
猫はそのまま行つた

犬の前を
唸 ....
コンクリートの塀に

一匹の蝶が来て留る

この目の覚める艶やかさは

一体どこから来たのだ

これがこの世の反映だなんて

私は信じない

むしろこれは世にないものだ
 ....
街を歩いていると
仔猫が身をすり寄せてきて
〈子供にして下さい〉
と言った。

海岸を歩いていると
オットセイの子供が
海から這い出してきて
〈子供にして下さい〉
と言った。
 ....
笹薮の中の

一輪の百合よ 

かぐはしくも

夢幻のやうにともつてゐる

白い灯よ



潤ひのない荒野に 

花弁をひらく

おまへのその

ひそやかな立ち姿は ....
尾羽を風に吹かれて
鶴はどこまで歩いて行くのだらう
追ひ風に逆毛になつてゐるだけ
見栄えのいいものではない


貴婦人がふくらむスカートの裾を
気にする風情で
遠ざかつてい ....
カリヨンの音色に合はせて
鳩が飛出してくれば
その下にゐるものは
みたまを受けた


みたまを受ければ もうしめたもの
とこしへの命を嚥下したやうなものだから
金銭では買へな ....
 

大きな肉の塊をくすねてきて
食べ飽き まだ半分以上も残つてゐるとき
犬なら 空地へ引きずつて行つて
埋めておくが


猫は そこに放り出しておくだらう
無関心かといふと さうで ....
野辺のコスモスと
上を舞う鳶は
同じ風の中にいる
コスモスの花びらの反りと
鳶の羽の反りは
風向きのままに靡いて
一心同体

陽光の眩さにしかめる花の仕草も
鳶の眼の目くるめきも ....
 


海に憧れるやうに
幼い頃から
パンに憧れてきた
男がある


憧れは
日に日にふくらみ
パンのかうばしさは
街筋を流れて止まず


憧れは夢に 
夢は幻に
幻 ....
ぎらつく夕日を受けて

入江の港を出ていく船がある

あの火玉のごとく直進するものは

いつたい

いづこへ

いづこの国へ



いや そんな単純明快なものではな ....
いつもの散歩のコースを延ばして
枯野に入つていくと
遠出の猫に出合つた
こちらも私と同じく
猫族を逃れてきてゐるのか
それとも人界を逃れてなのか
しばらく様子を見ることにする
いくら ....
 港


港には

船ばかりか

多くの鳥が

入港してゐる





 夏蝶


夏蝶は

すーと

日の果てへ

吸ひ取られていつた



 ....
 花の枝


夕景の中
もの思ひに沈んで
俯き歩いて来ると

花の枝が
通せん坊した

朝出掛けるときは
なかつた

―花の枝―

それが夕方
出現してゐる

天使 ....
旅先で母親に背負われた赤子から
青梅を貰ってきた
長く握々されて熱くなった梅なんか
欲しくはなかったけれど
どうしてもやるというので貰ってきた
いらなくなったからじゃない
奴らは一番好 ....
 
山里深く
美しい女が独り
淋しく庵を結んでいるとの噂を聞きつけ
伊達男や
誇り高い益荒男どもが
我こそはと
鼻孔をうごめかせつつ尋ねて行ったが

その度に女は
こんなときを ....
巌に一列に並んで
暮れなずむ彼方に見入つてゐる鵜よ

さうしてゐれば
見えなくなつていくものが
現れてくるとでもいふやうに
水平線を見据える鵜よ

こんなにもひしひしと迫り ....
―もう少し生きてみるか―
駅の改札を出てきて
ふと洩らした中年男のことば
連れがいるわけではない
一人で改札を出てきて
ふと洩らした独り言

僕は電車に乗ろうとして
改札に向っ ....
女が日盛りの中 黒い蝶を追つてくる
蝶は女の心の反映そのままに
定めなく飛び 深い森に迷ひ込む

木下闇の黒蝶は 決して見えない
陽だまりに現れるのを待つしかないが
いつまでも待つ ....
秋の公園には

白いベンチが

木漏れ日を浴びて

鎮まつてゐる



桐の葉がひらりと

ベンチにのる

どうぞ私を敷いてくださいな

またひとひら ふた ....
みづうみは傷ついた渡り鳥の
保養所
三日も水に浮かんでゐれば
癒しは全身に及び


いざ 
出立の羽搏き
あがる飛沫の半ばは
鳥の離別のかなしみ


みづうみは
 ....
カタツムリは
どうしてあんなに大きなラツパを
引き摺つて歩くやうになつたのだらう

身に余るラツパの大きさに
閉口してゐるのはよく見かけるが
いまだそのラツパが吹き鳴らされたの ....
ダチョウはいきなり

炎天の平原を走り出した

太い頑丈な足で

砂地を蹴立てて



彼の後ろには

砂埃が舞い上がり

動物たちは

砂つぶてをくら ....
霧が晴れてゆく

みづうみの奥から

水鳥が生まれてくる



霧がひくのと

同じ速度で

姿を現してくる



水は湧き

風ははしり

みづうみは ....
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タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
- 杉菜 晃自由詩13*06-10-24
山栗- 杉菜 晃自由詩14*06-10-23
乙女の傘- 杉菜 晃自由詩6*06-10-20
寒い日___みんな浮浪者- 杉菜 晃自由詩7*06-10-19
それは_あなたの中に- 杉菜 晃自由詩12*06-10-16
飛躍- 杉菜 晃未詩・独白4*06-10-14
頭に弾いた木の実について- 杉菜 晃自由詩12*06-10-14
路地猫- 杉菜 晃自由詩6*06-10-12
手紙- 杉菜 晃自由詩8*06-10-9
海に返す- 杉菜 晃未詩・独白11*06-10-8
白百合- 杉菜 晃自由詩13*06-10-7
奇跡のやうに- 杉菜 晃自由詩8*06-10-5
カリヨンの音色に合はせて- 杉菜 晃未詩・独白3*06-10-4
気まぐれ猫- 杉菜 晃自由詩9*06-9-30
インターネットに見るある少女の独白- 杉菜 晃未詩・独白7*06-9-28
小さなパン屋- 杉菜 晃自由詩8*06-9-26
一つの決心- 杉菜 晃未詩・独白6*06-9-24
枯野にて遠出の猫と遇ひにけり- 杉菜 晃散文(批評 ...7*06-9-23
港__夏蝶__闘鶏__……_- 杉菜 晃未詩・独白7*06-9-21
花の枝__岬- 杉菜 晃未詩・独白6*06-9-20
青梅の幼子の手にあまりけり- 杉菜 晃未詩・独白13*06-9-18
山里の女- 杉菜 晃自由詩11*06-9-16
列島の鵜- 杉菜 晃自由詩8*06-9-15
雑踏の中のひとり- 杉菜 晃未詩・独白11*06-9-14
黒き蝶- 杉菜 晃自由詩6*06-9-12
つれない秋- 杉菜 晃自由詩7*06-9-9
保養湖- 杉菜 晃自由詩5*06-9-7
♪_♪_カタツムリ_♪_♪_- 杉菜 晃未詩・独白8*06-9-5
ダチョウ- 杉菜 晃自由詩7*06-9-4
水鳥- 杉菜 晃自由詩6*06-9-2

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