すべてのおすすめ
あなたが転んだ
わたしは転ばなかった
並んで歩いていて
あなただけが転んだ
大きな怪我もなく
桜の花びらが落ちた
どうでもよいことばかり
ふと思い出す時がある
大切なことは ....
廊下。背中にも
季節があると知った
椅子の無い陽射しが
窓から海へと降り注ぎ
穏やかな陰影の様を作ると
雑学を語り終えたかのように
わたしは鉛筆を一本
また一本と折っていった
....
反復する呼吸
少しの重さ
ありふれたことなのに
落下傘だ、と
二人して笑った
微熱の名残りに
わたしちが寝転んだのは
芝生の庭だったかな
覚えたての呪文のように
何度も
....
心臓
あなたとの距離
咲かない花のような
綺麗な音を立てて
空を滑る雨
眠たい朝の構内で
電車は溶けた
消えた
その呼吸が好きだった、と
一行だけ描かれた
今日のレポート
....
別れは皮膚のあたりが
ひりひりする
トマトのゼリー状のところ
わたしが育てた何か
剥離するその先に
夕立だけの街
手を動かせば
いつも触れるものはあり
その形状も
その名 ....
カーボンニュートラル
ペーパーレス
紙は無くなりつつあり
本すらも紙でなくなっていく
紙
紙さま
神さま
そういえば最近
神さまもあまり見なくなったなあ
居づらくなっ ....
中華料理を食べそこねた兄が
急行列車で帰ってくる
僕はまだプールの水底で
習字の練習をしている
兄は僕より背が高く
顔も様子も似てはいないけれど
よく双子と間違われた
習字のはら ....
ほつれていくテレビに
故郷が映った
見慣れた橋や川面の姿
人も映っているけれど
ほつれていて
よくわからなかった
会釈くらいはしたかもしれない
そう思うと
雨の音が聞こえた
....
細々と、若い店員さんが
説明をしているうちに
柔らかな駅前には
ほんの少しの
路線バスが集まっていて
その人たちにも何か
美味しいと言ってもらえるような
ご飯を食べさせてあげたかった ....
昨日の末から断続的に
小さな一年間があり
天気の名前を作って
折り畳んでいく
優しい、誰かのために
二言三言の伝言と
朝用の傘を残しておいた
雨の中身が水になる瞬間の
映し出さ ....
雲は消えると
雲の墓場に行くんだよ
とあなたは冗談を言うのですが
本当に墓場はあるんだよ
雲はそう言うのです
それはどこにあるのですか
ほら、そこだよ
雲は指差そうとするのだけれ ....
陶器市に行きました
人や犬がいました
いろいろな色や形に
溢れていました
とても手頃なお値段だし
お金がないわけでもないけれど
何を買っても
わたしのものには
ならない気がしま ....
わたしの跳び箱が
静置されている
とん、と
一番高いところから
何も無い水平線が見える
息を紡ぐ
手や足が湾曲した先の行方
命のようだと思い
言葉はまだ拙くても
わたしは生き ....
わたしの中に雲が生まれた
雲は雨を降らせ
雨は涙となって流れてくる
悲しくて泣いているわけではないのです
そんな貼り紙をおでこにするけれど
前が見えずに歩くのが危険なので
今日は一 ....
新宿の雑踏に陽が差し込むころ
もう少し空気の言葉で話がしたい
自動販売機の隣で人を待つ人のように
母が持っていた日傘のことを思い出し
もう日傘がいらないことも
併せて思い出した
....
〇
玩具のミニカーに乗りたい、と
息子が言うので
助手席に乗せてあげた
エンジンが無いと動かない仕組みを
なるべくわかりやすく伝えた
息子は勉学に励み
大人になって
ミニカーに ....
手はさわり
落ちていく
あたらしく
たどりつく波
その波のかたち
平日の空気を
涼しい寝台特急は泳ぎ
車体を残して
溶けていく
あなたは積木の
手本をしている
手は繰 ....
観葉植物に餌をやり忘れて
餌はやらなくていいんだよ、と
言葉で教えてくれた人がいた
階段のよく晴れた踊り場のあたりにも
エタノールの匂いがしていて
その間、何本かの準急列車に
乗り ....
試着をし続けている間に
ぼくらはすっかり
年を取ってしまった
兄は定年退職を迎え
父と腹違いの叔父は
ベッドから起き上がれなくなった
会津に帰ると言って聞かないのよ
叔母が愚痴を ....
水槽のところで約束をした
真昼のすん、とした感じ
色違いの飲み物を二人で飲み
明日も天気はあるのだと
なんとなく思えた
歩く速度で歩くように
わたしたちは笑う速度で笑う
許したこ ....
お言葉ですが、と言った男
確かに言葉に違いない
うまく喋る
来年の言葉も昨年のように喋る
言葉は耳で聞くものではなく目で見るもの
肉体だからね、目で見る
山下君、山下君だったね
はい ....