その少女の心にとって
世界はちいさな鳥籠のようなものだった
清潔な場でなくてはならなかったし
少女も清らかな心を懐いて
完全無欠な美しい絶対の四季の森の湖面に
常にさやかな漣をつくる風のよう ....
意図は回りを濡らしてしまう
意味へと上手く収まり切れず
ことばは未満の盃
発しては 少しだけ 欺かれ
揺るがないものを前に
自らの揺らぎに幻惑されるのか
受けとめては傾ける 刹 ....
優しいだけの人も
冷たいだけの人もいないって
わかってる
だけど
どっちかだけの人でいてほしかったよ
あなたの言葉が
表面をすべっていった
向いている方向が
違うまま歩く夜
....
冬の群れが私を襲い
迷い込んだ高熱の森で誰かを叫ぶ
私の足腰の筋肉は溶けて
歩く音は電池の切れかけた時計
そして
この時だけは合法と見なされる白い粉を
何度も体内に注入する
四角い部 ....
今はもう、溢れて
零れるだけのボトルは、意味を見失い
積み重ねられた日記帳は
終焉の時まで
ただ、埃をかぶるだけ
西の窓にさす夕焼けが淡く滲みだし
新月の海を羅針盤無しで航海する、無謀 ....
セックスをもたらさないベッドがある
枕をはずして
もし何かをみつめてるとすれば
終わりのない色の
壁の終わり
空間にとっては軽すぎるものだろう
夕暮れに蛇をつかまえた
金はいつも夜に ....
最期のタバコ屋で最期の女に出会い
最期の言葉を交わして
いっしょに暮らそうかとも想う
いつも最期に出会いたくないので
のらりくらりいきている
挑戦状のないリングで闘争心のない犬と成り ....
難しいことはいいのだ
シンプルに
感じ ときめき
笑い 泣けばいい
難しいことはいいのだ
空を見上げ
青空にとけ込み
鳥になればいい
海に飛び込み
....
糖蜜工場が爆発したことによって
甘い蜜たちが
静かに街を流れ出しました
その粘度たるや
もう人の手にはおえない類のものです
アスファルトの上の蜜はそのまま冷えて固いかさぶたとなり
土の上の ....
焦りや落胆や失望は
いろいろなことを教えてくれる
ぼくには祈りがあるのだ
澄みわたる世界があるのだ
それが有難い
親切されたり誉めてもらえば
だれでも感謝ぐらいでき ....
いろいろに疲れて胸の穴がふさがりそう
だからページをめくります
詩がほしい
少しだけゆっくりと字を追って
あまりすきではないスタイルもかじる
頬がゆるんだら
心の穴も柔らかくなった ....
防波堤に打ち付ける、波
全てをさらっていく
泡沫が少し
澱みに残るだけ
日がやけに低い昼下がり
人の姿もなく
旅の友は、おねだり上手なカモメ
行先不明の私は
いつだって
迷ってい ....
大して明るくもない街灯が
スポットライトのように
道行く人の影を描く
おまえたちは
わたしからは丸見えだ
夜の道
わたしの道
四ツ辻から見渡す一本道には
ひと筋の闇 ....
河川がわらう
私のしたのだれそれに、私に、ふまれてきた、歴史ある石畳がわらう
なにをそんなに、しみったれた顔しとるのじゃ
と、かれらは、わらう
私は、私たちは、人工で加工され補強さ ....
説明 解説 言い訳
どれも要らないと云った
ただそのままで
あなたは惹きつける
男が女を始めて見たように
女が蛇を始めて見たように
たぶん
美しくて奇妙
エロチックで恐ろしい
....
誰も知らない そんな夜、
少女のぽっちり開いたくちから一羽の蝶が
それはすみれいろの 夢見るひとのうすい涙のような
蝶が飛んでいった 音もなく
(恍惚めいた ひみつの儀式)
....
黄色い海があってもいいでしょう
膠を火にかける、独特の匂い、かき混ぜながら換気扇を回し
くつくつと沸く鍋底を見つめる
足りない色を数えて
描けない絵のことを考えていても仕方がないね
のめ ....
1
赤トンボたちが
飛行機のルーツのように飛行している
一日ごとに冷たくなる風が
透明に流れている青空の清れつさと
黄いろい木々の退廃を同時に包含している
秋の午後
パズルのピー ....
ビルの虹彩にはアスピリンが打たれている
遠く銀の向こうで揺らめく
日差しの強い午後
近影は霞まずそこにある
街は熱を持ち伸縮を続ける
群れた家々の隙間で
赤い血液は想いを爆せる
道路 ....
いのちを使ってるか
時代や場所にも負けないほどの
それはいのちなのか
いのちを使ってるか
そのうえをだれかが歩くほどの
それはいのちなのか
春夏秋冬に感じている ....
私の背後には、いつも
不思議な秒針の{ルビ音=ね}が響く
――いつしか鼓動は高鳴り
――だんだん歩調も早まり
時間は背後に燃えてゆく
この旅路に
{ルビ数珠=じゅず}の足跡は…刻印 ....
はなくそ
きみのはなくそは ぺらい円の形で
フィンフィン泣く息でカポカポする
まるでコロッケのものまねの あのかつらみたいに
はなくそ面白いなぁ
くしゃみしたらママの手に ぺらい円の形く ....
座れと言われたら
立ち上がりなさい
殺せと言われたら
トリガーから指を離しなさい
撃てと言われたら
銃口を空に向けて撃ちなさい
くれぐれも空飛ぶ鳥に当たらないように
守ってと言われた ....
かなしみの
青が降る
透明、
ただ透明に
なっていく
己の体
幾億もの幾兆もの者達通った道
途、未知、溢れ
枯れ果て、移行する
闇の光の奥の
ふるふる震え揺れ
時の間隙縫い
開 ....
とかげの尻尾を捕まえて
振り回し
捻じきる遊びやったことない?
楽しいよね
人様の失言とか
失態とかそんな尻尾も集めて確か
引き出しの2番目だったかな
とってある
話のネタとしては
....
だれにもなんにもみとめてもらえない
そんなことをがんばるのは
がんらいごりやくしんこうのつよいわがかけいには
あまりないめずらしいにんげんにちがいなかった
雪が降る
....
早朝の湖を歩くのは誰だ。
湖畔の宿で耳を澄ませばそれは聞こえる。
眠れない夜を超えて我が神経を研ぎ澄ます。
苛立たしく窓を解き放つと、音の消えた足跡がくっきりと宙に浮かんでいる。
....
{ルビ理由=わけ}もなくかなしい時がある
理由はあっても 不明なのだ
本当は
居場所の見当はついている
古い古い付き合いの 理由を
引っ張って来て 座らせて
またも千日手を繰 ....
きっと夜空に映る
君に宛てられた
ひとつの恋とは
すべての愛のことだろう
きっと青空を想う
君に宛てられた
ひとつの運命とは
すべての宿命のことだろう
そっと静かに
君に奇跡 ....
夕暮れどき
一日の仕事を終え
石段を弾むようにかけおりて
家路へと急ぐ、うしろ髪を簡素にたばねた初老の少女
時刻を告げるためのモノラルのスピーカーが
懐かしい音楽の一節で
夕暮れのあたり一 ....
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