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虚無の庭に
僕らは佇む
灰色の日時計のかたわらに
でもこの場所は
光源のさだかでない光が
ぼんやりと漂っているだけだから
日時計は時を示すことができない
忘れない というクリシェを
....
{ルビ朧=おぼろ}に深まってゆく夜
鏡に映るのは諦めをつなぎ合う僕ら
幾重にも繰り返されたパラダイス・ロスト
進むほどに歪んでゆく羅針盤
僕らの無邪気の夢はとうに喰い尽くされた
誰かに ....
思いだして
思いだして
思いかえして
思いかえして
憶えているすべてが
ゲシュタルト崩壊してしまうまで
ときめきもきらめきも
苦みも痛みも
何もかもわからなくなってしまうまで
何 ....
いつかこの世界が終わるなら
それは夏の終わりのようであればいい
光と熱はなおも強く地上を
支配しようとしているけれど
加速度をつけて日暮れは早まってゆく
僕らは睡くなってゆく
漂ってい ....
真夏の空の濃い青から
幾重にも時間が墜ちてくる
墜ちてきては蝉時雨に砕けて散ってゆく
強い光線のもと
こんなに明るい真昼なのに
どこからか漂う 昏い水の匂い
それは私のものではない ....
夏にだけあらわれる
小径の奥に
ひっそりとした場所
そこにやわらかな墓標がひとつ
あたりを囲む緑のざわめきの中に
なぜかいつも感じる
揺籃の気配
その中には多分 壊れた玩具の ....
君の耳にだけ寄せる波がある
その波に織り込まれた風を聴きながら
君は眠る
あるいは踊る
フォスフォラスが鏡に映れば
ヘスペラスになり
ヘスペラスが鏡に写れば
フォスフォラ ....
光の骨をなぞる指のことを もう思い出せない
言葉を思いかえすほどに
少しずつずれて嘘になってゆく
そのグラデーションをせめて美しく
夕映えに織り込んで
待っているうちに
身体は闇の鱗で ....
水の上に花が咲いている
花の姿が水にゆらめいている
それをながめながら
幾重にも愛を囁きながら
幾重にも別れにふるえているような
このひとときに
いちばん告 ....
チューブから絞り出されるのは 炎
いくつもの炎がのったパレットから
その人は筆に炎をとり 絵を描く
パレットはいくつもの炎をのせながら
焦げることもない
筆もまた
炎をのせられたキャン ....
最初から廃墟だった場所で
最初から破片だった言葉を
拾い集め交わし合う
それは破片だから
時に自らを 誰かを
傷つけてしまう
しなやかで
すきとおる思惟で
編み上げられてゆ ....
なかなか雨はやまない
僕は夢想する
星空模様の傘をさして
君のところを訪ねたい
ジャム一瓶ほどの幸福をたずさえて
なかなか雨はやまないから
君のもとへ辿り着くまでに
傘も溶けてしまう ....
思惟のふちから
言葉が崩落してゆくとき
僕は君の夜を抱き
君は僕の夜を抱く
その暗い球体の中に
守るべきすべてが
あるかのように
たとえばそこに
紅い薔薇
暗さの中では
も ....
踊っている
{ルビ歪=いびつ}な星の上で
バランスをとりながら
踊っている
踊っていないと
この星からこぼれ落ちるから
どこなのかわからないどこかへと
昔
この星は歪でなかったとい ....
壊れた
あるいは
壊した季節
散らばる破片を
君は今は
振りむかずともよい
君が遠くを歩いているあいだに
それをそっと
継ぎ合わす手がある
月と星の光を熔いたもので
ひとつひと ....
あまりにも純粋で
故に{ルビ果敢=はか}なく捉えがたく
けれど
強く深く
轟きでもあり
静寂でもあり
満ちあふれ
けれど虚ろで
鋭く
けれどやわらかく
かぎりなく甘 ....
僕らの夜をめぐる熟れた遊星
僕らの夜に降りそそぐ甘やかな流星
僕らはいつか来る終わりを
待ち望む気持ちを
ひそかに淡く抱きながら
今ひとときを寄りそう
銀の小さなフレームの中の
....
優しい崩壊がはじまっていた
あまりにも優しいので
感じるべき痛みを
感じることができない
あまりにも無垢な幻想が
あまりにも無垢なまま
此処を通りすぎることはできず
幾重にも折り畳ん ....
濃い青の空に
白い雲の城砦がいくつも立ち
なかぞらを埋めつくす蝉時雨
他のどの季節にもない濃密さで
夏は君臨する
けれどその夏の中に
巨きな空洞がある
夏のあらゆる濃密さが
そこで ....
亡びたもののあかるさが満ちる夏の庭
もう誰も時刻を読むことのない白い日時計
茂みに囲まれた小さな池
茂みをざわめかせていた風がやむと
あちこちの陰にひそんでいた気配たちが
(それが何の気 ....
君が「孤独」と名づけた場所
そのさらに奥に
小さな部屋がある
くすんだ象牙色の壁紙
いくつかの黒ずんだ木の棚
そこには本 小函 硝子壜
円い置時計 何処かの土産といった風情の
人形や ....
アガパンサスの揺れる向こうから
夏の旋律がこぼれはじめる
空の青と光の白が
みるみるそのまばゆさを増してゆく
そこに君が居た
そのなつかしさは残酷なほどあざやかだけれど
でもそこはもう
....
そして私は迷い込む
静かな五月の夜
輪郭を失くした処に
複流し
伏流する時の中で
淡くオーヴァーラップするのは
私の意識と
君の意識か
(私とは)
(君とは)
谺のように出 ....
もうどこへも逃げてゆけない言葉たちが
{ルビ凝=こご}る五月闇
夏の色が濃くなるごとに重くなってゆく空
その空の重みに耐えかねて
虚ろになる意識
否 虚ろを装う意識
綴るご ....
蜃気楼を君が飼っている
蜃気楼が君を飼っている
どちらにしてもおなじことかもしれない
どちらにしてもつかのま見つめているだけ
春の午後に置いた
白い椅子から
四月は斑に
私を蝕する
陰鬱な雨と
あまりにもかろやかにあかるい陽射しと
半透明の眩暈に
浸されながら
{ルビ通草=あけび}が咲く藤が咲く
咲くものは数多あり
夢みるものも ま ....
言葉が置かれる
そこから意味がたちのぼる
また言葉が置かれる
そこからまた意味がたちのぼる
たちのぼった意味たちは
なかぞらでつながりあい
時にはまじりあいとけあい
そうして
....
シリウスの光を砕いてその瞼に
ベテルギウスの光を溶いてその唇に
さいごに淡い冬銀河の光を
その面輪にうっすらとのせて
私がこうして
君に化粧をほどこすのも
これが最後
冬の星に彩られ ....
遠い手が
わたしに触れている
触れているのにその手は
遠いままで
けれどその遠い手は
わたしに触れている
遠いままで
たしかに しずかに
遠い手の持ち主は
知らないだろう
....
あたりいちめん
黒曜石の闇
静寂
ひんやりとした闇を
全身で感受しながら
踊りはじめる
身体ひとつ
黒曜石の闇の中
踊っている自分の
手先足先さえ見えず
けれどその身体 ....
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