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雨のなかの無言
港の夜の終わり
藻の緑の昼と午後
霧は凍る
岸を摑む
埠頭の音が曇に映り
やがて粉と降りそそぎ
常に宙に消えてゆく
影さえ土に ....
明るく狭く
ひらかれた場所へ
漏斗の霧がそそがれる
やわらかく 蒼く
もろい立体
雪が触れる
影が触れる
常に常に
泣いている片目に
うたを塗す
....
小さな子らが
涙を浮かべた目を見つめ
虹の瞳だ と言った
たくさんたくさん 集まってきた
特別なことは何もない
すべてを
ただ恐れているのだ
と言った
....
洗面所で
顔を洗っていると
母が居間から話しかけてくる
何を言っているのかわからない
洗面所で
歯をみがいていると
母が台所から話しかけてくる
何を言っている ....
雪に重なる雪の音
角を曲がり 消えてゆく
光のはざま 分かれ径
樹々のかたちに倒れる霧
光の壁に光が
影の壁に影が浮かび
輪郭だけが吼えている
誰もいない街に吼え ....
冬の背中
冬の公園
冬の遊具
開くはずのない窓のまぼろし
そこに居ない声
大勢はひとり
冬の径
握りしめた楽器
明るい
ただひとりの窓
陽を浴びてい ....
鳥のそばに鳥が降りて
花
と つぶやく
すると色は
色をやめるのだ
指さえ かなぐり捨ててまで
目は とうの昔に
泡のものだから
灰を踏みしめ 灰を廻る ....
蜘蛛の糸の生きものが
紙の壁をのぼりゆく
少しずつ少しずつほどけながら
夜の明るさへと近づいてゆく
歪んだ空の台形が
高みの曇に照らされている
斜面が斜面を
金属 ....
水底の傷
陽を見つめつづける
水底の傷
霧の奥の棘
言葉を抄えない
霧の奥の棘
空き地をわたる風が
目を潤ませる
昨日の雨
昨日の文字
....
見えないほど小さなひとつのかけらが
ずっとどこかで匂いつづける
次々に場所を変えながら
部屋の一部だけが揺れつづける
誰のものかわからぬ指跡が
火のようにあちこちを焦 ....
鳩を鴉に差し出して
また一日を生き延びた
誰も居ない橋の下に
ただ雨だけがやって来た
苦労知らずの三十路の子供が
にこやかに自身のことばかり言いつづける
聞いている ....
伽の無香が音を鎮め
光の皺が
あたたかな色を奪い
さらにさらに喉は渇く
小さな小さな氷河の夜が
常に足元にまとわりつき
骨の空洞を羽に満たす
震えを震えに重ねなが ....
大きく重くやわらかい
三角形のパンの塔を
月あかりの径に倒してゆく
眠りに至らぬ眠り気を
眠りはひとつ抱き寄せる
(ひとつ 嘘をついていますね)
はい パンの塔 ....
風が風で
風のままに風で
風以外のものすべてを
風に透している
焦げた港
暮れの青と水
人音の無い径
海に満ちる耳
空が空を剥がしてゆく
銀の彫像 ....
縦の渦の目
夜の窓をすぎる
虫の声の羽
笑む火の口もと
縦の渦の目
縦の渦の目
双つの花の目
早朝を泳ぐ
未満と未明の
機械的なまばたき
双つの花の目
....
頬にできた腫れ物を
結んでいったら門になった
誰も通らないので
自分で通ったら
門も自分も消えてしまった
....
指と指のあいだのすべてに
見えない小さな輪がからみつき
食べても食べても消えてくれない
顔の横に 風を吹き出す鏡が居て
常に斜めを向いているので
首から上が映ることが ....
片方の指の半分が
いつまでもいつまでも濡れている
むらさきの
二重の光
そっと頁の上をおさえる
小さなけものの前足が
沼のような暗さを湛え
土を少しだけ歪めている
....
土を穿つ夜の影
かたちにかたちを閉ざす影
底の見えない
水のような影
径をふちどる暗い静脈
聞こえないものを包みながら
風から風を奪いながら
ゆらゆらとゆらゆ ....
冬は重なり
遠のいていった
蒼は銀になり白になり
やがて見えなくなり
聴こえなくなり
さらに見えなくなった
映った力が生きていて
刷毛のように支配した
塗り ....
自転車の前輪の
音も姿も消えてゆく
ただ後輪の影だけが
どこまでも自分を追い抜いてゆく
見えなくなる 見えなくなる
夜の光の下
深緑の猛者
おいしげる
おい ....
目にはふたりの天使がいて
朝のまばたきに言葉を交わした
ある日目覚めるとひとりの天使が
目の下の黒ずんだ荒野に去ってしまっていた
言葉の無い朝の光に
片方 ....
雨を吸った荷を枕に眠り
どこまでも開きつづける羽を夢みる
左側だけが蒼い羽
鍵を持つ手を戸惑わせる羽
いさかいの火に
月は燃え 雲を吐く
ただの黒へ ただの黒へ
鳥は沈 ....
にわかには信じがたい歌と指によって
けだものは のけものは 降って来る
目にあまるけだもの
手にあまるけだもの
首を差し出せば
からみつくけだもの
出た ....
筆を取れば
紙は消え
紙を取れば
筆は消える
身体にあいた小さな穴を
言葉は通りすぎてゆく
灯りの消えた店のガラスに
明るい傘がひしめきあい
水た ....
果実のように眠る蛇が
枯れ木の枝に揺れながら
見知らぬ少女に呑まれる夢を見ている
少女は蛇を知っている
眠ったままの蛇の頭を
深く口に含んだとき
無味の毒が舌を ....
棄てられた道のざわめき
野に沈んだ鉄の轍が
震えるたびに運び来るもの
蒼と紫の光が軋み
激しく小さな
数え切れない夜になり
雲を鳴らす音とともに
草の波をつくりだ ....
あなたのざくろを手にとり
涙が止まらない
いつのまにか降った雨で
道は濡れている
雲は西へ西へ西へと渦まく
夕暮れはもう地のほうから蒼い
鉄塔をまわり終えれば
....
夜の灯りに染まり連なる
紅くにじんだ雲の前に
誰もいない建物がつづいていた
記憶と 事実と 交響と
淡く静かな流れに沿って
目に映る火と
映らない火の
か ....
午後に目覚めた双子の猫が
雨のむこうのはばたきを見ていた
夢の音から目をそらし
見つめた先にはばたきはあった
はばたきは薄く光を帯びていた
ゆっくりと近づく別の ....
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