夜のしるし
木立 悟





見えないほど小さなひとつのかけらが
ずっとどこかで匂いつづける
次々に場所を変えながら
部屋の一部だけが揺れつづける


誰のものかわからぬ指跡が
火のようにあちこちを焦がしゆく
それを追えば何処に着くのか
わかるものも わからぬものも追わぬままでいる


泣かない赤子が
じっと見つめる闇のその先
中庭を巡る氷と溝に
未明の塵が撒かれはじめる


咲いていないのに咲いたもの
穂と実と種を手わたすもの
光は光を憶えている
朱色の径を憶えている


乾いた血が剥がれ 空をゆく
灯に照らされた壁が
言葉の影を薄めてゆく
幻日を囲む羽虫の目


いつのまにかすぎた双つの震えが
中庭の門を歪めていた
地表にざわめく金と緑
まつり縫いの花を咲かせゆく


ちぎれてはちぎれては戻る空
声ひとつ 羽ひとつ
常に常に足りぬまま
夜は廻り 廻りつづける



























自由詩 夜のしるし Copyright 木立 悟 2014-09-01 10:35:09
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