父が帰ってきた。

白い靴下
プーマのニット帽
それらに合わぬ羽織袴を着て。

「お父さん、格好いいよ。」

母にほめられ
少し照れたように見える父は
布団の中で微笑んでいる。
 ....
花柄の便箋。

「大事なときに、使うんだ。」と

丁寧に取っておいた。

人を出迎え

父を送り出す合間を縫いながら

新しいボールペンで文(ふみ)をしたためる。

ちゃぶ台を ....
握った手を、離すことが出来ない。
 
絡まった指先を、解くことが出来ない。

熱がこもる掌が

冷たい手と心を暖めるようで

「その手を、ずっと・ずっと繋いでいたい。」と

あなた ....
「幸せになりなさい。皆で力を合わせ、家を守りなさい。」

四十九日の晩
夢枕に立つ父が私に言った最後の言葉。

晴れた日の日曜日
花びらが舞う広場で
おにぎりを頬張る女四人ばか ....
すれ違う時、片方の目は開かない。
かけたい言葉/話したいという欲求を抱えたまま
最後の最後で死に別れる。

(何処かで、会えます様に。)
会いたい・・・・。会いたい・・・・。と思うのは
魂 ....
幾何学カットされた放射状のライトセーバー。
グラスに注いだ水はきらきらと反射をして
虹のアーチを作る。

日の光を全身に取り込んだグラスは
魂の輝きを映し出すかのように
手にする者を無言の ....
お父さんが死んだ日
いつもより輝いてみえた北斗七星。

お父さんが死んだ日
いつもより白く見えた庭の雪。

お父さんが死んだ日
いつもより寒く感じた六畳の客間。

寝ていたはずの猫 ....
特別に購入した特急券が

財布の中でひときわ目立っている。

朝日を浴びて飲む栄養ドリンクが

ラストスパートの合図にも聞こえ

一周する秒針に最後の一枚を託す。

外では帰省客が ....
平行線がモニターに表れて

力の抜けた父の身体は

関節を失った人形のように

母の腕の中で横たわる。

(星がいつもより余計に輝いて、ファミリーワゴンの屋根が強く反射していた。)
 ....
客席の端に座り

マイクの前に立つ声を聞きながら

抱きしめられない寂しさでうつむいている。

「去年の今頃は、あなたのことを知らなかった・・・・。」

聞き馴れた音楽が流れ

そ ....
「父が居なくなって、自由になった。」と言われたので

(縛るものが欲しい。)と

戒律を作った。

心に硬く
心に巻きつけて。

私は目隠しをしてから
自らの全身を巻きつけた。
 ....
影送りが

色濃く映る空の下

火葬場の入り口では

これから家を見る妹が

父の遺骨を抱えている。

後から来る私は

父の遺影を掲げ

笑った顔に笑い返し

すっぽ ....
返事の無い玄関先。

「ただいま。」と言って

父の姿を待つ。

去年の今頃は/一ヶ月前までは

奥のリビングから父の歩く気配がした。

今は私から靴を脱ぎ

畳部屋の父の祭壇 ....
奇跡が起こる瞬間を描いて

苦しい毎日を過ごしていたのに

一番の奇跡は

母と娘たちが引き起こしていた。

数年と言われていた父の寿命は

2倍の10年目を数えた後

一つの ....
大きな一呼吸

(ピーッ・ピーッ)と鳴る心拍数

閉じたままの瞳

左回りの一針が

小さな不安を呼び起こす。

(高い鼻・長いまつげ・尖ったあご)

顔立ちが美しいと

 ....
父が教えとして伝えた物事は
今すぐに理解出来なくても
成長するにつれて
解かる物ばかりです。

何かに困ったとき
どうしたらいいか迷ったとき

父の言葉を思い出して
父ならどうするか ....
父の声が、聞こえなくなった。

「もう、泣くのは止めなさい・・・・。」と

私を突き放したのだろう。

匂いの消えた、フリースマフラー。
折りたたんだ簡易ベット。
もうすぐ手放すファミ ....
父の好きだった物を食べると
思い出す事が多すぎて
(もう二度と食べない。)と
自ら放棄した。

熱々のラーメン。
つやつや光る大皿の刺身。
カラフルなマーブルチョコレート。
一息ついで ....
あなたに抱きついて

匂いを嗅ぎました。

いい匂いだと判ったので

一人占めしたくなりました。

声も/その手も/優しく奏でる詩も

横に居て一人占めしたいと

ますます強く ....
名前を呼んで。

私だけの持ち物を。

眼鏡の奥の瞳を見ながら

名前を呼んで。

父と母と家族がくれた

この世で唯一の宝物。

(お願い。お願い。)

名前を呼んで。
 ....
切っ先を突き立てると

むき出しの乳房をつたう赤いしずくが

干からびたへその緒を濡らす。

一人欠けた視界の中は

景色と表情と人の形が見えなくなった。

遺体になれない私は
 ....
私の父は、明という字に彦と書いて「明彦(あきひこ)。」という名前だった。
小学生の頃国語の授業にて、名前の由来の話になった。
当時クラスには、「彦」という名前を持つ男の子が2・3人いた。

昔 ....
星になったお父さん。
緑色に染まった大腿骨
熱が残る銀の台。

星になったお父さん。
布団の上に置かれた守り刀
それを手に取り
喉元へ突き立てる。

白く覆われた空が
泣くのを見ら ....
顔を上げると、あなたは笑っていて

私を見つめる瞳は、逸らされることも無く

固定されている。

「ただいま/行ってきます。」といっても

自分の声だけが響いて

あなたはただ
 ....
洗い立てのセーターが
残っていた匂いをかき消して

近くに居るはずの存在感をまた一つ
この世からほおむり去った。

庭先で鳴く猫が
「寂しい。寂しい。」と呟いているようで
荒れた畑の片 ....
父の声を聞きながら
新宿駅9番ホームへの階段を駆け上がる。

「早く帰っておいで。」
という会話を終えて、今年最後の電話は切れた。

(山梨行きの特急切符。)
お金と時間を計りにかけて、 ....
雪が残る夜の庭先。
これから・・・・
帰宅する父を待っている。

妹二人に連れられて
「ただいま。」を言わないで帰ってくる父を・・・・。

(父が眠りに付き、大きく息を吸った瞬間を覚えて ....
刺身を盛り付けると
「うまそうだな。」という声が聞こえそうで
安曇野のわさびをすりおろす。

刺身を盛り付けると
ほくほく顔のお父さんが横に居るようで
馬刺しも別皿に用意する。

「ま ....
目の前で
僕の知らない姿になって
君は無言で立ち上がる。

目の前で
僕の知らない姿になって
白い胸元晒しだす。

目の前で
僕の知らない姿になって
綺麗な背中を見せ付けた。

 ....
父が寄り添う。
父が寄り添う。

喪服姿の妻と娘たちを抱きしめるかのように。

父が手を振る。
父が手を振る。

満開の桜を頭上に仰ぎ
最後の団欒を見届けながら。
梓ゆい(388)
タイトル カテゴリ Point 日付
夫婦。自由詩315/4/23 7:14
最後の手紙。自由詩215/4/23 2:26
握手自由詩215/4/20 8:20
父のお願い事。自由詩115/4/20 7:55
曇りガラス。自由詩215/4/20 4:45
真夏の家族。自由詩715/4/19 1:04
お父さんが死んだ日。自由詩415/4/18 7:49
朝もや。自由詩215/4/2 21:24
夜の吐息。自由詩315/4/2 8:23
ポエトリー・リーディング。自由詩315/4/2 8:09
縛るもの。自由詩315/4/1 1:50
煙。自由詩315/4/1 1:49
花吹雪。自由詩415/3/31 4:28
軌跡の後。自由詩315/3/30 22:46
脈。自由詩215/3/30 21:15
父の教え。自由詩315/3/28 18:21
形跡。自由詩215/3/28 0:04
chikara。自由詩315/3/27 22:55
好きな人。自由詩415/3/20 4:50
名前を呼んで。自由詩215/3/20 4:32
むき出し。自由詩115/3/20 4:23
名前一つの尊敬。散文(批評 ...115/3/16 22:39
星になったお父さん。自由詩415/3/16 22:26
笑顔。自由詩215/3/16 22:26
形見分け。自由詩315/3/15 20:22
年末年始。自由詩115/3/15 20:01
待ちわびて。自由詩215/3/15 19:55
食卓。自由詩515/3/10 17:01
目の前で。自由詩115/3/10 16:38
無題。自由詩315/3/2 15:13

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