(どうしたら、お父さんは元気になるのだろうか?)
東京に行く前の晩

少し細くなった父の右足を揉みながら
二人並んでテレビを観る。

「大丈夫だよ、少しずつ良くなっているから。」
 ....
「もう誰も、必要とは思わないのですね・・・・。」と
黄ばんで染みだらけのまま
段ボールに詰められて家を出る文庫本の呟きが聞こえた。

私は
父の遺骨の欠片をぽっけに入れたときのように
読 ....
父の焼く卵焼きは
ほんの少し砂糖が入っていて
ご飯の上に乗せて醤油を垂らすと
一パック分の鰹節が欲しくなる。

(ご飯の上で、湯気の音頭に合わせてゆらゆらと踊り狂う鰹節。)

赤い箸で何 ....
渡しそびれた手紙が
一冊の本に挟まっている。

「必ず届きますように。」と手を合わせ
何冊かの本と共に
庭の片隅で火にくべた。

燃え残ったページが
秋の風に吹かれ
くるくると ....
私は、怖い話や怪談が大好きだ。もしかしたら、詩よりも怖い話や怪談が好きだと言っても過言ではない。怪談関係の作家に、怪談史家・小池壮彦(こいけたけひこ)さんと言う方がいる。その怪談を前後の歴史から読み解 .... 誰かがいなくなっても
昨日と同じように日は昇る。

誰かがいなくなっても
手の中にあるチョコレートは
ほんの数秒で元の形を無くし
水に流され消えて行く。

もうすぐいなくなる誰かを待ち ....
目の前で
あなたのことを語る女は
他でもない私自身です。

私は今
友と呼ぶ人の話を聞いています。

目を輝かせ
あなたの事を笑顔で語る女の話を。

「私も好きなんです。あなたに負 ....
(食べかけのマドレーヌが、道端に落ちている。)

返信の無いメールとSNSに並ぶ数枚の写真。

私の存在は、何処かに追いやられ視界にも入らなくなった。

「元々、何処にも居なかった。」と
 ....
青い陶器に詰まった白い骨

その欠片を一つつまんで
ぎゅーっ。と握り締める。

すぐに崩れ落ちた手のひらの欠片は
流れ落ちるはずの涙に代わり
手のひらの上で水滴のように散らばった。

 ....
名前を呟いて目を閉じれば

愛おしい顔がすぐに見える。

「会いたい。話がしたい。」と思い

電話帳を開いても

ボタンを押せないまま蓋を閉じた。

(梅雨の空模様。)

ぽつ ....
ぐっ・・・・。と飲み込んだ負の感情。

ふとした時にこぼれて

些細な変化を気付かせた。

「それはまるで、革命前夜のフランスのよう。」

小さな狼煙が上がり始めると

その ....
手を当てて暖めようとしても
冷たい頬は硬いまま。

閉じた目を開こうと話し掛けても
名前を呼ぶ返事は無い。

「お父さん、おはよう。」

朝起きた私はいつものように
挨拶をする。
 ....
「食べる事は、最高の幸せ。」だと
病気の父を見て思う。

炊き立てのご飯と葱納豆。

よく噛んで食べて
完食出来るという事は
何よりも尊いと
味付けの薄いお粥を父に差し出した。

 ....
「人の、役に立つ事を考えなさい。」

ある晩
淹れたてのお茶をすすりながら
父は諭すように言った。

今でも
(何があるのか?何なのか?)を片隅に置いて
職場の受話器を取り
職場のパ ....
ひとつ足りないと
この団子は出来ません。

(あんこ・ごま・きなこ・ずんだ・醤油・みたらし・よもぎ。)

たくさんの味のものを食べても
お腹がいっぱいになったとは思えないのです。

「 ....
足音が響く焼き場の通路
父の姿が見えないものか?と何度も見渡した。
手帳に忍ばせた写真の中では
父と幼い三姉妹が
ディズニーランドではしゃいでいる。
進学時
家を離れる前の晩
 ....
レンズ越し

姿が観たいと願いつつ

何気に覗いた骨壷が

夕日に染まって

血を流す。
粥を含んだ口元。
生きる事をかみ締めるかのように
ゆっくりと唇が動く。

とろとろに煮込んだ粥は味付けも無く
米の甘みが弱った体に優しい。

おわん半分に残した粥を下げたとき
父は ....
昨日咲いた向日葵を見上げると
笑顔で眺める父が居る。

(お父さん、お父さん。今年の向日葵はいつも以上に大輪になりました。)

「小さくて、元気が無いのかな?」という一言が効いたのでしょ ....
最後の瞬間
かける言葉は無かった。

ただ
流されるがままに
「ありがとうございました。」と
言っただけ。

「お父さん死ぬな!!!」と
耳元で叫んだ人の話を聞いていたのだが

 ....
「受け入れる。」という行為は

「己自身が楽になる。」という事だ。

諦めとも違う想いを引き下げて

父の骨壷を墓の中に収める。

(ごりっ・・・・。ごりっ・・・・。)と

重い扉 ....
昨晩の雨は雪へと変わり

昼過ぎには太陽にバトンを渡す。

帰宅した父を囲み

静かに語らう母と娘たち。

その手は何かを決意し

何かを覚悟するかのように

しっかりと握 ....
マーブルチョコレートを口に含み
父の事を浮かべながら
「美味しい。」とつぶやく。

喉を滑り込み
口の中をほろ苦くして
「これはうまいね。」とほころんだ父の顔が
はっきりと見えた。

 ....
薄く紅を差した土気色の唇。

「顔が綺麗になったね。」とつぶやく母が

少しだけ微笑んだ。

「また、何処かで会おうね。」と棺を覗く妹は

涙をぬぐう事も無く

もうすぐ灰に ....
父の眼鏡が光を取り込んで
天井に反射をした淡い粒子が
「帰ってきたよ。」と呼びかける初夏の午前中。

庭では母と娘が
来たるべき新盆に備え
草取りをしている。

うっすらと積もる雪の中 ....
父と過ごす最後の時まで
離れまいと決めた早朝。

冷えきった畳部屋であぐらをかき
ゆっくりと茶をすする父がいると
何気なく思う。

眠ったままの父をみつめ
正座を崩してそこに座れば
 ....
父を失った悲しみが癒えるとき
棚の奥にしまったままの写真は
寝室であった部屋の鏡台に置かれる。

新しい写真立て
マーブルチョコレートとゼリービンズ。
それらは決して開かれないまま
誰か ....
零れ落ちた詩を拾い集め

パズルを組み立てる代わりに

初めて出会った場所の記憶を掘り起こす。

(それがどこなのか、悲しいくらい忘れてしまった。)



目の前に居るのは幸せに ....
くるくると回る提燈の灯りの元

笑ったように眠る父が居る。

父の横に座り

口元に耳を近づけて

微かに聞こえる寝息を聞いた1月15日の深夜。

父を挟んで布団を敷いた妹たちは
 ....
ドライアイスの冷たさが

置いた手の感覚を奪ってゆく。

触れていれば・暖めていれば

父は目を覚ますと考えた。

指先の感覚が無くなった手を離してタオルで包み

霜で覆われた父の ....
梓ゆい(388)
タイトル カテゴリ Point 日付
かわいそう。自由詩3*15/10/5 1:39
本を育てる。自由詩3*15/10/2 11:29
男の料理自由詩4*15/9/29 21:04
空が落ちている。自由詩6*15/9/28 22:04
幽霊は、足跡を残す。散文(批評 ...215/8/17 0:30
もうすぐ。自由詩3*15/8/15 3:39
女友達。自由詩215/8/5 14:12
置いてけぼり。自由詩015/8/5 14:11
ばらばら。自由詩315/8/5 14:08
雨模様の片思い。自由詩115/8/4 3:43
兆候。自由詩3*15/8/4 3:31
苦い昼。自由詩4*15/8/4 3:26
反面教師。自由詩115/6/29 5:54
父の慮り。(おもんぱかり。)自由詩215/6/29 5:38
串団子。自由詩115/6/29 4:31
うつけもののささえ。自由詩3*15/6/13 5:21
眼鏡。自由詩3*15/6/6 5:05
1/2自由詩3*15/6/2 3:02
夏休み。自由詩215/6/2 2:40
出棺時。自由詩315/6/1 22:29
墓石塔自由詩3*15/5/29 0:13
雨の日のお迎え。自由詩3*15/5/21 1:40
波紋。自由詩115/5/20 20:24
無題自由詩3*15/5/19 21:55
麦藁帽子。自由詩615/5/17 0:52
日常の景色。自由詩515/5/12 9:42
区切り。自由詩415/5/9 5:14
恋文。自由詩215/5/9 4:35
妹二人。自由詩315/5/9 1:28
枯れ枝。自由詩515/5/4 16:57

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