カーテンが
レールをすべる速度で
ひかりは生まれ
わたしの部屋に
朝をさしこむ
レースを通過した
木漏れ日から
光をひとつ選び
手に入れることなど
できない
あやふやな瞬間が
....
海が近いことを知り
かなしみをさまよい
また生まれては
消えゆくものの儚さは
通り雨のように
振り返ることもない
いのちもまた
空のしたに
ゆたかにたたえられ
空もまた海に
鮮 ....
想うことでしか
満たされることのない
言葉のすき間を
こっそりと埋めている
夜のからすが
忘れられた唄を
鼻で奏でる無意味
夜明けの海が
静かに沸騰するころ
意味という名の
鳩 ....
眠るまでの少しのあいだ
自分から発せられる
においを嗅ぎながら
内側から人間の
かたちをなぞってみる
それから
夢の世界にたどりつく
夢の世界に浮かぶ雲
彼もまた
眠るまでの少し ....
告げることもなく
終わるものの
西日に照らされる
影のかたち
騒がしく
鳴り続けた夏が
ひとびとの胸に刻まれる
記憶のかたち
あの角にはたしか
食堂があったはずだ
なぜ ....
天井から
雨が降る
からっぽの家よ
さようなら
涙の足音
思い出ばかり
見つけてしまう
わたしたちは
家族です
翌日
家は消えました
さみしさに
耐えられず
海で ....
今日わたしは
はじめて
自分の声を
発したようである
意味はまだない
欠陥である
血管が
血が流れる管
だとしたら
そこがふさがったら
たいへんである
詩どころか
....
格子縞の海を
旅してる
あなたの自転車が
さみしい弧を
描いているのだろう
音がする
鉄柵のむこうから
声のようにかすれては
消えゆくものの
西へ向かう空
魂に似た囁きの
....
ドレッシングがなくても
野菜はおいしかった
ファミレスのサラダバーから
野菜が消えたのは
失恋した女が
生で食べつくしたから
なみだの味が
このうえない調味料となり
すこしばか ....
階段をのぼる足音の
海をさかのぼる
波音が今
わたしの深い
大陸棚に
ぶつかる音がして
なにも見つからない
ちいさく
広がるだけの星が
こぼれる秋
虫の声が燃えている
理 ....
やさしみを追い越して
苦しみが走り去ってゆく
あるいは
親しみや憎しみ
すべて等しく並んで
世界陸上には
いつだってはじめに
言葉あるいは問いがあった
オンニュアマーク
....
空を展開図にして
組み立て直したら
あなたがいなくなった
もう一度
組み立て直したら
わたしがいなくなった
知らないだれかが
組み立て直したら
あなたはあらわれた
ふたり ....
未来のように
なつかしい
時間を持たない
風景があった
潮の匂いがする方へ
無言のまま
花びらを一枚一枚
千切っては捨てる
日々が続いた
家族が家族である
理由はあったはず ....
木の匂いがするものに
羽がおいしげり
季節を旅した
木目に張られた弦は
春夏秋冬の調べを
思い残すことなく
飛び続けた
西の水平線の
はるか向こう側
目覚めたばかりの朝が
....
ただ
空だけが去っていくよりも
窓から見える電車の行方が
気がかりだった
アフターサービスは万全です
断言した店員が
明日にはまた別などこかで
同じような物語を語り続け ....
歌声は必然となり予知した
扉を開けると歴史があった
かのような感性が
刻まれるたくさんの歓声
生き様が時間と場所の
一致へと導かれ
喜びと悲しみあるいは
理解しえない感覚さえ
意味を待 ....
即席のバーベキューセットで
思い出を焼いた
崖から海へ降りる際に
つかんだ植物さえ
根こそぎ収穫した
無人島生活は今日で
一ヶ月目になる
暦の上ではすでに
夏は終わっていたはずなのに
....
きりぎりすに憧れて
毎日泣き続けた
涙が涸れてやっと
きりぎりすになれた
美しい鳴き声は
声ではなく
羽の摩擦音だった
少し興ざめして
もう人間には
戻れなかった
象徴化された
シンパシーが
屋上で欠伸をする
記憶装置が
スキップして
計画と組織は
順序よく
並べ替えられた
戸棚のチーズが
模擬実験的に
世界に調和され
ねずみた ....
光が伸びていく方に
魂があるように
牛もまた
どこかへ向かって
伸びていった
お母さん
と呼べば
お墓の中から
鳴き声が聞こえる
膝をかかえたまま
じっとして
夏の一日だ ....
古代に誰かが語った
人間は考える葦である
を受けて
近代の誰かが語った
人間はもの思う葦である
を受けて
現代の誰もが語らなくなった
もの言わぬ葦も
時代を超えて
いずれも人間である
遠方の空から
羊の手紙が届く
あなたは
読みかけの夏に
栞をはさむ
本棚にある
羊の数ほどの秋は
夢から覚めたばかりの
赤い枕だった
隣では不眠症の女が
羊を数えながら ....
季節のかくれんぼ
がはじまって
夏が秋をみつけた
あなたがわたしを
みつけられないまま
かくれんぼは終わった
その角を右へ
曲がればあるはずの
家までわたし
たどり着けなかった
その角を左へ
曲がればあるはずの
家まであなた
みうしなっていた
ガムを噛んでは
吐き捨てて
生きること ....
二人が出会ってから
いくつもの電車が通り過ぎた
始発の準備をするあなたが
終電の窓の向こう側に見える
わたしはあなたに
ありがとう
と言った
次の瞬間にはもう
始発に乗っている ....
鳥の泣き声が
朝を告げて
あなたはあの空へと
羽ばたいていった
残された羽根は
栞ではなく
さよならを告げるための
置き手紙になった
夜が土に潜る
朝が地上に発芽する
空にツルを巻き付け
昼の花を咲かせ
西の空に飴色の実を落とす
その実を私が食べる
夜がわたしに発芽する
砂に埋めた記憶が
呼吸を止めて
海水の表面張力が
零れそうになる
あなたは
なくしたものばかり
瞳にうつしたがる
ポケットの中に
言葉が生まれる速度よりも
あなたの思いが
離れていく速度のほうが
少しだけ速かった
ポケットは口を開けたまま
言葉を失っていた
かき氷屋さんに
立ち寄っただけで
わたしは
何も注文しなかった
高層ビルが
背中に日焼け止めを
塗りたがっている
背中は海岸線沿いに
長く伸びてゆくのに
あなたの足跡は
波 ....
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