上昇する空に
なすすべもなく
はじめて聞く翼の音に
耳をかたむけた朝
土は懐かしく湿り気をおびて
無数の記憶が飛び立つと
残された孤独の夜が
夢の中から
僕を見降ろしてる
五月が
裏口から入ってきて
玄関から出ていくところだったので
私は少し呼び止めて
今こうして二人でお茶を飲み
別れを惜しんでいます
何もはなさずに
はなすことなどもうなくなったから ....
たんぽぽの
綿毛の浮力で生まれた
子供たち
あたらしい夏を追いかける
その先の
風に乗って
走っても
走っても追いつかなかった
今は春の終わり
見たこともない土地の空
....
鼓動する
線路上の心臓の
信号ではじまる旅
信号で終わる旅
点滅する
信号の果てにある
命の駅
信号は
出会いの青だから
別れの赤だから
動脈と静脈が
行き交う街に ....
目を覚ますと
ベッドの上にいた
白いシーツがどこまでも広がり
睡眠中
あつくてはいだのか
山のように連なる毛布から
上昇する太陽が
まっすぐわたしを照らしてる
もう三日歩い ....
時間という単位も
人間が考えたものだから
流れてるような気がしてるだけで
それはお金のようなものではないのか
お金を借りたら少しだけ
時間ができたような気がして
貸してくれたその人と ....
その奥にはいつも
僕がいた
誰かの家があって
誰かのように
そこで暮らしていた
その奥にはいつも
T字路の
道がふたつあった
僕はその部屋にいた
時々わからなく ....
にごり水のすきまには
とてもせまい空席が
すみわたる空の波の間で
ゆりかごのように待っている
にごればにごった水のまま
にごる理由もわからずに
残されたその空席を
赤子のようにゆら ....
空のすみずみまで血はめぐり
いつもの午後が
今日も静かにあくびする
ふと目が合って
空の心臓が
止まりそうになった
手を繋いで歩いたら
真っ赤な大きな心臓が
名残惜しそうに ....
盆地を走る列車に乗って
窓から景色を眺めると
かつて僕の世界には
奥行きと幅
高さだけがあったのだ
あの山の並々に
目指す高さがあったのだ
今はその山の向こうの
知らない海が
....
鏡のしくみで
生きている
笑うと
鏡も笑ってる
光の世界で
くしゃみした
永遠の
瞬きのように
母さんと間違えて
息子が僕に抱きついてきた
首筋に
ぴったり口をくっつけて
おっぱいみたいに吸ってきた
ああ
母さんになるって
こういうことだったんだ
時計を見ると朝の六 ....
小学生の頃、父と釣りに行った
昼過ぎから夕方まで
魚は一匹も釣れなかった
はら減ったべ?
タバコを吸いながら父は
僕にそう聞いた
きゅうにおなかが空いてきて
おもわず
....
長さが
ちょうどいいので
いつもその道を歩いた
長さは長さ以上に
距離ではなく時間だったから
帰る家もなつかしい
廊下の床がゆるんで音が鳴るのは
散歩と人の長さが
同じ距離に ....
雨の日なば
いっぱい
匂いっこするっけおの
雨の日なば
匂いっこ嗅ぎつけて
いっぱい
犬っこ集まるっけおの
雨の日なば
いっつも
なんかの大会
やってらっけおの
ば ....
何かが
桜の木にぶらさがってる
よく見るとそれは
何か、というよりも
転勤してきた
部長さんであることかわかる
かわいそうに
あんなにあかく染まって
誰もが桜だと思う
帰り ....
週末
接待のため夜中に帰った
けっこう酔っていて
おみやげに肉まんを買って帰った
あっくんが起きてたら
一緒に食べたかったのに
と、言おうとしたのに
あっくんが生きてた ....
グッバイベイビー
きみはまだ
そこにいるのかい
トンネルを抜けると
そこは
まだ雨が降らない
東京駅だった
高層ビルが
山のように建っていて
お洒落だった
遠くの景色が霞 ....
とりあえず
と言って別れたあと
事故にあった
病床で
痛みに耐えて
うなされながらも
とりあえず
と寝言を言ったらしい
意識が戻って
何か食べたいものある
と聞かれたと ....
君が牛乳なら
僕はコーヒーだった
国道4号線
右折しても左折しても
そこは鎖骨だったから
かならずてのひらで行き止まりだった
行き止まりの
てのひらを握りあって
....
野球を見に行った
試合の途中
本日の入場者数がアナウンスされて
僕が生まれ育った町の人口ほどだった
思わず観客席を見回すと
そこには
懐かしい人ばかりいるような気がした
当 ....
男湯から君に話しかけたかった
石鹸が指からすりぬける音も
手ぬぐいをしぼる強さも
とてもよく知ってた
あの頃僕は独身だった
おそらく君も
牛乳を飲みたかった
あれは
神さまの涙だったのです
亡くなった人のために
涙を流してしまったのです
その涙の川で
溺れて亡くなったのです
私たちが
神さまでした
泣き叫ぶ人はまだ
川のよ ....
世界がひとつになると
さらさらと
砂の崩れる音がする
幼い頃
ひとり布団の中で
聞いた音と同じだった
朝、家族に
おはようを言う
こんなに幸せな朝なのに
さらさらと
....
犬が
二匹やってくる
白い犬が
白かった
かつての犬が
僕は白い
家に住んでいる
犬として
犬を守る
存在として
まだ白かった頃
彼等もまた
白かった
僕がま ....
この空のどこかに
きみはいるのだから
僕は丘の上で腕を広げて
知らない鳥と
知らない言葉で語り合う
木にとまったまま
じっとして
少し考えてから
小さくはばたきして
それはゼス ....
春なのに
鈴虫が鳴いてるようだった
古くて白い建物の
裏の方から聞こえてるようだった
この庭で
子供たちとよく遊んだものだ
木がひとりごとを言って
泣いてるようだった
帰り ....
虹のようなところに
キャベツが生えている
抽選でもれなく
誰でも食べることができた
今日はマリーという人が
当選した
まだ生まれたばかりだった
はかいされたまちが
きおくをとめて
しにたえる
あのかぜは
どこへいくの
きいてもだれもこたえない
どこでもないところに
さっていくから
きこえてくる
はるのあしおと
はき ....
冬の吹雪と
春の桜が散る様子は
趣が似てるように思う
そんな時僕は
大の字になって寝そべり
雪と桜に埋もれて
何か大きなものとひとつになるまで
ずっと、そうしていたものだ
積も ....
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