雨の粒たちが描く
池の波紋を見ながら
保育園からの帰り道
娘は赤い小さな傘をさして
唇をぎゅっと結んで
最近、娘の話題といえば
明日の遠足のことばかり
弁当のおかずの注文 ....
覚えてる
迷ったときの指先のちょっとした仕草とか
暑い室内でむっと漂ってきた身体の匂いとか
正午、君がサイレンの口真似をすると
僕らは作業を中断して
いつも小さな昼食をとった
今日 ....
牛乳の入ったマグカップ
右手にあるその重さとその軽さ
トースト
トマト
スクランブルエッグ
生きるということの重さは
生きるということの軽さ
そこまで考えるといつも
ねずみがえしの ....
兄はまだ小学生相撲大会の賞状を
大事にしているだろうか、と
扁桃腺の手術後
縫合を忘れられたままの婿養子は
まだ考えているだろうか
ふとバス停に波は寄せて返し
沖に流されていく砂の ....
僕は波に濡れ
波に濡れたままずぶ濡れとなり
絶え間なくそれは
断続的にそれは
いつまでもそれだった
それって
日テレ?
いえ蛋白質の軽めやや三十倍程度の喪中
ツモ
ラスハクで ....
娘が補助輪無しで
自転車に乗ることが出来るようになった
それは昨日のこと
最近左手がきかぬと
父がペットボトルの蓋を人に開けさせた
それは今朝のこと
僕は時のパズルと戯れながら ....
マンホールの蓋を開けると
ハローページは既にそこまで
ぎっしりと積み上がっていて
でかくて、飲み込めね、でかくて、飲み込めね
ごきゅごきゅ喉をいわせ
頑張っている船長の隣で
僕はタウン ....
ワン!
と唐突に始まる詩
を数編書き
少女はそれから二度と詩を書こうとはしなかった
ターコイズ、ターコイズ、ターコイズ・マーチ
ターコイズ・マーチ
先生!山下君のターコイズ・マーチ ....
今、入門書が熱い!
という情報を聞きつけ
俺は師走の街をかっ飛び
かっとーび
許されるならすべてを散財し
強弱も忘れずに
強も弱も
俺の大切な兄たちたちが教えてくれたよ
引き連 ....
ホッチキスの針よ
俺の兵隊となれ
兵隊となり武器を持て
突撃
そして発射
せよレトロ光線
七十年代のビビビ
人間万事バンジージャンプ
ロープをつけずに
ジャンプした俺の恋人
ば ....
いつからだろうマフラーがすっかり
魚だ
巻くと冷たい鱗がささり
しかも時々鋭い歯でかみつく
工場からの帰り
俺の手は油と煤だらけだが
首のあたりからは
腐った泥の臭いしかしない
明 ....
脳みそが痒いな
朝から痒いな
のこぎりでギリギリと開けて
痒いところを掻きたいな
掻いたら脳みそぐちゃぐちゃになっちゃうかな
ぐちゃぐちゃになった脳みそは味噌汁になるのかな
....
今朝、あつ子は眼鏡だった
俺はあつ子をかけて新聞を読んだ
悲しい記事をであつ子は泣き
楽しい記事をであつ子は笑う
俺のあつ子、眼鏡は泣きも笑いもしないのだよ
そう言うとあつ子は黙って ....
道路の端っこに弟が寝ていた
こんなに寒いのに
と思いながらも弟らしい寝姿に
つい笑ってしまった
半身を起こし後ろから両脇を抱え
ズルズル引きずる
小さい頃はよくおぶったものだ
気づかない ....
てのひらにドアを取り付けた
白くてとても素敵なドアなので
一度遊びに来てください
と、旧い知り合い数人に手紙を出した
一通が宛先不明で戻り
それより早く金を返せ、という返事が来た以外は
い ....
僕のエレベーターが機能しないのですが
機能というからには昨日からなのですが
頭の毛が抜け始めたのはもっと前からなんですが
床にだらしなく広がる乳液
それは僕の止まらないサーカス
細胞 ....
心臓は崖へとつながっている
推定二百メートル
くらいでしょうか
そこから下を覗きこむのも可ですが
寧ろ僕は
ヤッホー
の魅力にとりつかれいつまでも
ヤッホー
ヤッホー
と繰り ....
通勤カバンの中身が
巨大なネコの昼寝だらけ
暴発、し、俺!走り!抜ける!
山形屋とトヨタの間の路地を
あらぬ方へよからぬ方へ
俺の影を位牌にしてくれ
俺の位牌をKIOSKで売ってくれ
....
下駄箱の中
君はいったいどれくらいの間
神と呼ぶものに祈っていたというの
十七歳だったころの
愛されていた少年よ
牛皮の匂いがする両手で
夕日のたまごを包み込んで
すべての葉を散らした体内で
葉たちはもう
おしゃべりをしているころだ
定期入れから定期券が消えた
そんな話をかつて書いた
どんな些細なことにも顛末というものがある
発端は結果を生み結果はまた何かの発端となり
僕らの日常は限りなくその繰り返しだ
例えば僕らの誕生 ....
待ち合わせの時間まで
僕は地下街の書店で時間を潰すことにした
詩集のコーナーで数少ない詩集を二、三冊めくってみたが
どれもこれもピンとこなくて他のコーナーにある書籍も
黙りこくったまま ....
右耳の穴から垂れ出した
一筋のサンショウウオがてろりんと着地し
長い尾をぞろびかせながら水の
水のある方へと歩いていく
一方僕といえば
家の前に横たわる幸福な犬の死体を幸福な面持ちで ....
夜中、目がさめて階下に降りると
君が僕を積み上げていた
たどたどしい手つきで慎重に積み上げ
途中で崩れると
ふうとため息をついてまたやり直す
時々どこか気に入らないようで
何か ....
料理を注文する君の声が
空気の振動のような透明さで店内に響く
放っておくと月明かりしか入ってきませんから
と、ウェイターがカーテンを閉めていく
中央のテーブルでは座高の高い男が
大声でメ ....
結露が止まらない
いくら拭いても
壁や窓から滲み出てくる
このままでは
部屋が水でいっぱいになってしまう
僕らは慌てて非常食、ラジオ付き懐中電灯、
釣り竿等々をリュックにつめる
....
定期券が消えた
ある日こつ然と定期入れから消えた
懐かしい色の子供たちが
僕の知らない歌を歌いながら
道の一箇所に立っている
煙草を吸う
定期券が消えた
煙草を吸う
今日も君にお付き合いしてアニメ「ドザえもん」を見た
ひ弱な少年が未来からやってきた溺死体型ロボット
「ドザえもん」の秘密道具を使って
自分より屈強な者や裕福な者に立ち向かい
勝利し ....
物を収集するという行為は
生存競争という過酷な環境に無い者にこそ許される
嗜好性の強さはその個体の死を意味すると言っても過言ではないだろう
生きていくためには他にすべきことが山ほどあるのだか ....
君が夕食の支度をしている間
僕は前衛を守る
前の打者が歩かされ
憤怒した僕が強烈なシュートを
右から三つ目に叩き込むと
僅かばかりの利息が通帳に加算される
ご飯よお
僕のいなくな ....
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