「そもそも、わしが生きていたころは」
生きていたころは、なんて言うくらいだから
やって来たものは
今はもう生きていないものなんだろう

「そもそも、わしが生きていたころは!」
今はもう ....
透明な波が
どこからかやってきて
ささささあん、ささささあん
とうち寄せてくる

けれど
透明な波はあまりに透明だから
私はいつもそれに気づかない

例えば
静かな朝の食卓
箸を ....
こびとは手紙の最後に
「こびとより」とそえたあと
「こ」と「び」のあいだに
小さく「い」の字を書きくわえた

しばらくながめているうちに
恥ずかしくなったのだろうか
てのひらで手紙を丸め ....
妻と相談して
家にエレベーターを取りつけることにした
けれど、取りつけた後で
この家には二階も地下室も無いことに気が付いた

ボタンを押すと
チーン
と音がして扉が開く
上にまいりませ ....
濡れズボンが風にそよいでいる
明日ごろまで生きていれば
多分それを穿くわたし
ねえ
あそこに流れていくものを
いつから雲だと知ったの
深夜、バスに乗る
乗客もまばらな車内
運転席をのぞくと
濃紺の制服を着た父が座っている

昔、一度だけ
大人になったらバスの運転手になりたかった
という話を聞いたことがある
どこかで何 ....
桜の枝を折ったジョージは
一生砂漠の砂を数え続けるという
罰を受けた

ああ、それならいっそのこと死刑にしてください
そう懇願したが

いやいや、罰とはそういうものなのだ
裁判長のこの ....
普通の椅子だったのに
ある日、突然
わたしは人になった

初めて目でものを見た
初めて呼吸というものをした
初めて手でものを掴んで
初めて足で歩いたりもした

椅子に座らなければ ....
よんどころない事情があって
きりんはタクシーに乗ろうとするけれど
長い首がひっかかり
ああしたり、こうしたりしても
乗ることができない

もうどうしようもないから
きりんが運転手のお ....
彼女からの手紙が
炊飯器の中で見つかった
もう
ほっかほかの
ぐっちゃぐちゃで

炊きたてのご飯はうっすら黒く
食べると微妙にインクの味がする
時おりぐにゃりと繊維をかんだりもする ....
バス停で
ネクタイをしていないことに気がついた
社会人としてあるまじき失敗
かといって家までネクタイを取りに帰る時間も無い
ネクタイに代わるものを探していると

あった
ベルトだ
 ....
ニュージーランドにいるキウィという鳥は
羽がすっかり退化してしまっていて
空を飛ぶことができない
夜行性のその鳥は
夜になると木の穴の中などから出てきて
えさを探す
もちろん飛ぶことが ....
「うみ」
と書けば
白い波が寄せて返し

「そら」
と書けば
どこもでも青く

「もり」
と書けば
木々が香り

「とり」
と書けば
それは翼をもって飛びまわり

「ま ....
天ぷらを揚げているうちに
この世にいるのがわたし一人きりになった
キッチン
みんないなくなってしまった

父も
母も
あなたも
娘も
隣の中村さんも
隣の隣の西野さんも
裏の ....
彼女に歌をつくってあげたかった
とってもスウィートでハートフルなやつを
彼女のためだけにつくって
彼女のためだけに歌いたかった

プリンの歌がいいな
うん、いいね

僕はノートに詞 ....
人差し指に生えた翼が
大空に憧れるから
気がつくとわたしの左手は
空にまっすぐ伸びている
飛びたくても飛べない右手が
それにつかまって
わたしだけ一人
地面に足を生やしている
あなた、頑張って

隣で寝ている妻の寝言にびっくりした
寝ているのに何故わかったのだろう
わたしはちょうど42.195キロのフルマラソンの最中で
トップを走っているのだ
これからきつい ....
年老いた画家は絵の中の少女に羽を描いた
羽を得た少女は絵の中の空を楽しそうに飛び回った

画家は少女にもっと立派な羽をつけたくて描き直そうとしたが
羽をとられてしまった少女はうつむいている ....
街中を
ウィリアム・テルが走り回っていた
何故ウィリアム・テルと分かったか、というと
それはどう見てもウィリアム・テルだったから

駅前の市営駐輪場に
真っ赤なリンゴがポッツリとあった ....
信じてなんかいなかった
信じていたいだけだった
信じていたいだけの自分でいたかった
信じていたいだけの自分でいたかった自分を傍観者として眺めて、
こいつは自分に酔っていたいだけなんだ、と嘲 ....
私はもう涙しません
何故なら、そう決めたからです
だからもう涙しないのです

地球温暖化が進んでいるといわれている昨今
これからの降雨量も心配でしょう?
だから貴重な水資源を失いたくないの ....
たわしはもう
わたしのことなど忘れて
海に帰ってしまった

たわしのかわりに
いわしで風呂の掃除をすると
少し生臭かったけれど
自分も海に帰れたような気がして
そのような気がして

 ....
たわしを買ってきたわたしは
綺麗な洋服を着せて居間に飾った

たわしはどこかわたしに似ていて
わたしは一度もそのように飾られたことなどなかった

日曜日
わたしはたわしを使って風呂掃除を ....
薄幸そうな女が歩いていく
カツカツカツカツ通りを歩いていく

お気に入りの赤いコートを着て
カツカツカツカツとブーツの音を響かせて
薄幸そうな女が歩いていく

背筋をピンと伸ばし
 ....
名を知らぬ花の前で立ち止まっていると
すぐ後ろから
「ママ、雪柳が綺麗だよ」
という声がするのでした

明日はパパと3人で動物園に行くのですか

ごめんなさいね
春は小さな物音にも ....
いろんなものがぶら下がっていたので
ついつい拾ってきてしまった
天井から吊るすと
いろんなものがいろんな色に光り
窓を開ければ夏の風に吹かれて
いろんな音をたてる

シャリン、チャリ ....
夢の中で
年老いた象が悲しそうな顔をしていた
どうしたのか、と聞くと
故郷のアフリカに帰りたいのだと言う

草原で捕獲され
動物園に運ばれてからの調教師との親交や
子供を出産したこと ....
台所に落ちていたピーマンを
コロコロと転がす

窓の外
喪服を着た人が数人通り過ぎていく
誰かの死はいつも何気ない

昨日より少し蒸す部屋に
何の比喩にもなれない私がいる


 ....
駅前で冷蔵庫が名刺を配っていた
私も一枚欲しくて列に並ぶ

冷蔵庫の中が無性に見たくなって
ドアを開けようとすると
少しムッとしたみたい
ガサガサ音をさせる

もらった名刺には冷蔵 ....
ようかんが街をつつんで
今日も夜がやってきました

駅からの帰り道なんですが
星々は百円ショップのようにチープにまたたいて
さしずめ月は壊れたひょうたんってとこですか

秋の虫がいい ....
たもつ(1691)
タイトル カテゴリ Point 日付
ぱくぱく自由詩203/10/24 8:57
ぷかぷか日和自由詩703/10/20 13:05
風にわたって自由詩1403/10/20 13:03
世界エレベーター自由詩3903/10/14 11:14
明日ごろまで自由詩903/10/14 11:13
約束自由詩603/10/7 8:29
砂漠自由詩603/10/7 8:24
普通の椅子自由詩903/10/3 12:51
きりんタクシー自由詩1203/10/3 12:50
置き場自由詩1803/9/30 16:59
人生劇場[group]自由詩403/9/30 16:55
夜に走る自由詩603/9/24 17:07
「 」に言葉を入れてみろ自由詩3203/9/17 12:53
天ぷら自由詩1403/9/17 12:49
プリン自由詩6*03/9/16 15:48
憧れ自由詩303/9/8 15:32
本当の名前自由詩703/9/8 15:30
一枚の絵自由詩303/8/26 19:29
さよなら自由詩203/8/26 19:28
あの時、駅の改札口に自由詩103/8/26 19:27
炒めた玉ねぎは涙の味がするのだ自由詩403/8/18 13:15
それからのたわし自由詩803/8/11 15:53
たわし自由詩603/8/11 15:52
薄幸そうな女自由詩303/8/7 10:42
雪柳自由詩203/8/4 21:49
夏の音自由詩503/8/1 16:10
象の夢自由詩403/7/29 15:15
梅雨入り自由詩303/7/25 8:30
生きていくこと自由詩1003/7/23 12:51
家に帰る自由詩403/7/15 16:54

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