川の{ルビ畔=ほとり}に身を屈め
婦人は洗濯物を
無心にこする
額に、汗は滲み
袖を捲った腕に水は、跳ね
風に揺らめく、草々と
汚れを溶かす
川の流れと
背後をゆらりと過ぎる、 ....
参道を無数の鹿が
{ルビ長閑=のどか}なリズムで、歩いている
野球帽の少年が
鹿せんべいを
口許にやっては、はしゃぐ
首からカメラをぶら下げた
アメリカ人のおじさん
橙色の法 ....
ライブ会場に
アンコールは湧き起こり
サプライズのゲストで、呼ばれ
舞台に上がった
利久さん
ピアノとギターで弾き語る
男女のユニットの傍らで
スケッチブックに、赤く
Lov ....
竹筒からひとすじの糸が――落ちる
石の器の{ルビ水面=みなも}に、円は広がり
しじまはあふれる
絶え間なく心に注がれるもの
心の{ルビ靄=もや}に穴を空け
密やかに
わたしをみたす ....
掌に乗せた
十円玉の寺院の中に、小さな僕がいる
小さな僕が、院内の
大きな阿弥陀如来像を、仰げば
周囲を
十三体の仏に囲まれながら
薄い目を開いている
その頭上で
小さな仏 ....
哲学の道を入り
敷石をふみしめ歩いていた
(道の傍らをさやかに水は流れ)
遠くから、外国の男性がふたり
こちらへ歩いてくる
僕は敷石を一旦、下りて
道の外れに身を引いた
(弾む英語の ....
夫婦で、出かける準備をする
告別の朝
在りし日のお{ルビ義父=とう}さんが見ていた
テレビがふいに、点いた
夫婦は顔を見合わせる
(からだを脱いでも
{ルビ御魂=みたま}はおられ ....
夜空から明滅して
ゆらゆら下りてきたUFO
が
白い塔に刺さったまま
もう長い間、固まっている
その足下を京都の人々は ....
灰色の街に
今日もじゃぶじゃぶ降りしきる
情報洪水の雨達
駅のホームに立つ人々は
小さな液晶画面
の上に
人さし指を滑らせる
ひとり…ふたり…と
人がロボット化してゆく様を
....
平たい皿の上に
幻の鶏が一羽
細い足で、立っている
こけえ
くぅおっこ
こけえ
青い空へ吸いこまれてゆく
あの日の、さけび
先ほどまで
醤油のたれに{ルビ塗=まみ} ....
雨の日に
道の向こうから歩いてくる
幼い娘と母親は
手を繋いだまま
せーのーせっ
の声あわせ
水溜りをひょいと{ルビ跨=また}いでいった
わたしの日常も、密かな
せーのーせっ
....
グレープフルーツ色のグラスを、手に
今夜はこうして夢見よう
いつかは消える、この道ならば
少々頬を赤らめて
僕は知らなかった
今・この瞬間、世界の何処かで
赤子が産声をあげ ....
私の内面の鏡には
百の顔がある
まともに視れば
自らがもたないので、私は
へどろに包まれながらも
発光する太陽の真珠を
自らの{ルビ御魂=みたま}として
秘密の祭壇へ
無心 ....
五年ぶりに福島から来た
トモダチのライブを観た
本人と固い握手を交した後
人混みのロビーから外へ出て
都内でライブハウスの店主をする
トモダチのトモダチに三年ぶりに
電話して、懐かしい ....
夜の砂漠の果てに
無言の姿で立っている
ひとりの木
枝々の短冊は夜風に{ルビ煌=きら}めき
忘れていたあの歌を
旅人の胸に運ぶ
――君の夢は何?
思春期に使い古した言葉は
....
あなたは一体
何処から来たのでしょう?
あなたは、あの日
たった一粒の種でした
一粒の種の中には
「他の誰でもないあなた」という設計図が
小さく折り畳まれ
ぎゅっ ....
郵便ぽすとが
陽だまりに
一本足で、立っている
今まで、どれほど人の思いを受け入れたろう
これから、どれほどの言葉を届けるだろう
今日も手紙を持つ人がすうっと闇に手を入れる
....
建設現場で
クレーンに取り付けられた
ドリルがゆっくり
地中深くを掘っている
地球の中心に
灼熱のマントルは
どろどろ光る
わたしという存在の
只中も、掘ってゆけば
小さなマ ....
時おり
俺は何だって
ごああ、と
唸りたくなる
池袋の土曜の夜
醤油をたらし
出汁巻卵を
箸で突っついてる
酔い覚めの夜は
歩道橋に佇み
優しい風に身を{ルビ晒=さら}す
アスファルトの白い{ルビ梯子=はしご}から
仄明るい駅の入口へ
吸い込まれゆく
人々
アルコールが少々体内を
回 ....
湯島天神の境内に入り
石段で仰いだ空の雲間から
顔を出す
しろい輪郭のお天道様が
遥かな距離を越えて
この頬を温める
あぁ、皿回しの利口なお猿さんが
師匠に手を引かれ
ひょこひょこ ....
Youtubeの画面にいる君は、木槌を手
に、鐘を鳴らす。ネットカフェから出た地上
は、若くして逝った君の父親があの日歌った
スクランブル交差点。
ぎくしゃくしたノイズが都会の鍋から溢れて ....
こんな{ルビ襤褸=ぼろ}きれの僕の中に、びい玉がある
億光年の光を宿し
何処までも続く坂道を (発光しながら)
回転して、のぼりゆく
二年前にこども医療センターで行われた
ダウン症をもつ書家・金澤翔子さんとお母さんが
講演する写真が、廊下に貼られていた
(写真の隅には、ダウン症児の
息子を肩車する僕と、隣の椅子に座る妻)
....
My boy
大事な薬をスプーンで入れようとするのに
真一文字に口を結ぶ君は、頑固者だ
My boy
頑固に生きるってことは
自ずと苦労を背負うってことだ
頑固であるってことは
....
弱いのに
強いふりして、生きるから
しんみり…歩く
夜の散歩道
誰もいない公園で
のっぽの電灯に照らされて
ブランコに揺られる
独りの影
大人になった心の中にいる
小さな子供 ....
よく晴れた初夏の午後
家の庭で、ダウン症児の息子に
青い帽子を被せる
まだ{ルビ喋=しゃべ}れない5才の息子は
うわあっ!と
帽子を脱ぎ捨てる
部屋の中にはBGMの
ロックが流れ ....
生きるとは
自らに内蔵された
ギアを、入れること
長い一本道で、アクセルを踏み込む
遠くから
フロントガラスに小さな太陽を映す車が
近づいて…すれ違う、瞬間
僕はぎらつく光を魂に摂取して
目的地を見据え 走る
退職の翌日は、僕が司会の朗読会
――三十年前の今日、事故にあいました
高次脳機能い障がいの詩友は新妻の弾く
ピアノを背に吠える ぱんくすぴりっつ!
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