目の前に 
清らかな川の流れがあった 
両手ですくった水を飲むと 
足元の小さい花がゆっくり咲いた 

村に戻り 
壺に汲んで運んだ水を 
器にそそいで皆にわけると 
口に含んだ人のこ ....
「 誕生 」という地点から 
「 死 」へと結ばれる 
一本の糸の上を 
わたしは歩いている 

頼りなく両腕をひろげ 
ひとりきりのサーカス小屋の舞台上を 
よろよろつなわたる道化とし ....
朝食のバナナをほうりこみ 
口をもぐもぐさせながら 
ねぼけまなこで 
汚れた作業着をはく 

ポケットから取り出した 
昨日の悔しい仕事のメモを 
丸めてゴミ箱にすてる 

窓から ....
その頃田舎で独り暮らす老婆は
畳の部屋で湯飲みを手に 
炬燵の上に置いた
一枚の白黒写真をみつめていた 

身に纏う軍服と帽子の唾下から
時間を止めたまま今も微笑む 
あの日の息子 
 ....
江ノ電の窓辺に{ルビ凭=もた}れ 
冷たい緑茶を飲みながら 
ぼうっと海を見ていた 

突然下から小さい手が伸びてきて 
「かんぱ〜い」 
若い母の膝元から 
無邪気な娘がオレンジジュー ....
    彼は文学館の一隅に再現された、今は亡き作
    家の書斎に立っていた。木目の机上には白紙
    の原稿用紙が一枚置かれ、スタンドの灯りに
    照らされていた。

    まだ ....
視界に入った 
地面の上の
{ルビ蟷螂=かまきり}に 
思わず急ブレーキを握り 
ペダルを止める 

足元に 
身じろぎもせず
老兵のように 
土色に身を溶かした 
秋の蟷螂 
 ....
昨日のゴミ置き場で 
幸せそうに日向ぼっこしていた 
白い便器の蓋が 
今日は無い 

腰を痛めて十日間 
介護の仕事を休んでいたら 

先月の誕生会で 
目尻の皺を下げていた 
 ....
昼寝から目を覚まし 
休憩室から職場への 
一本道を歩いていると 

路面に置かれたひとつの石は 
忘れられてもなぜかまあるく 
不思議とぼくを励ました 
{ルビ雀=すずめ}の親子が列になり 
1・2・3・・・ 
路上のひなたに
小さい影が跳ねている 
藍色のカーテンを
閉め切った部屋で 
スタンドの灯りに
照らされた机に向かい 
すれ違うこともないだろう 
百年後の誰かに手紙を書いた 

万年筆を机に置いて 
深夜の散歩に出かけると ....
わたしという 
一人の凡夫は 
目には見えない
風の絹糸で 
見上げた夜空に星々の巡る 
あの 
銀河のメリーゴーランドと 
繋がっている 
「 あさって帰る、戸締り頼む。」 

親父の書いた太い字の 
メモはテーブルに置かれ 
日頃にぎやかな 
家族みんなは婆ちゃんの 
米寿の祝いで熱海に行って 
ひっそりとした家の中 
 ....
老夫の胸に
長い間蓋を閉じていた
遠い日の戦  

時折今も夢に見る
モノクロームの場面 
白飯を掻きこんだ後 
張り詰めた空気の部屋で 
就寝前 
心細く母のことを語らいながら 
 ....
ふいに目の覚めた深夜 
妻の亡いひとり暮らしの老夫は 
布団から身を起こす 

サイドテーブルに置いた 
リモコンを探りあて 
ボタンを押す 

テレビに映し出された 
モノクロ画面 ....
旅先の古い駅舎の木椅子に座り 
彼はなにかを待っている 

別段何があるでもなく 
時折若い学生達の賑わいに 
花壇の菊の幾輪はゆれ 

特別おどろくこともなく 
杖の老婆はゆっくり横 ....
腰を痛めて休養中のある日 
一本の万年筆を右手に持ち 
ノートを開いた
机に向かっていた 

窓の隙間から吹く風に 
浮かび上がるカーテンの 
見上げた空にはいつかと同じ 
つばめの群 ....
鼻をかもうと 
男便所の扉を開けたら 
トイレットペーパーは 
三角に折られていた 

便器を囲む壁に取り付けられた
ベビー用の小椅子には 
説明シールの絵が貼られ 
腰を丸めておじぎ ....
ほねつぎから帰った祖母が 
我家の壊れたインターフォンに 
「故障中」を貼ってくれと 
ガムテープをさしだした 

腰を痛めて休養中のぼくは 
マジックで「故障中」と 
力強い字で書いて ....
雨の日にモーツァルトの{ルビ弾=ひ}く 
ピアノの単音を背後に聞きながら 
今頃声をかけあい 
ひとりの老人を介護する 
同僚達を思い出す 

{ルビ忙=せわ}しい職場を離れ 
こうして ....
棚の上に置かれた 
小さい額の中は 
去年の祖父の墓参り   

過ぎた日の 
こころの{ルビ咎=とが}を忘れたように 
墓前で桜吹雪につつまれ 
にっこり並ぶ 
母と祖母 

雲 ....
一日というものが 
こわいほど 
早くに暮れる 

きっと人生は 
序章から終章まで 
風にめくれる無数の{ルビ頁=ページ}を 
一瞬のひかりでつらぬく 
一冊の本 

一日の終わ ....
「親父はがんもどきだね」 
「お前は豆だよ」 

「母ちゃんはさといもだね」
「いいやじゃがいもだ」 

「婆ちゃんはもはや梅干」 
「それはそうだな」 

ぱりっとした衣に
じゅ ....
秋の夜の 
冴えた月を見ようと思い 
夕餉の前に 
門を出る 

静まり返った虫の音の 
時折闇の茂みに響く 
川沿いの道を歩く 

背後から 
車の近づく音がする 

ステッ ....
先日詩人の夫婦に会い 
日々寝不足の夫の目に
{ルビ隈=くま}ができていたので 
妻に「大丈夫?」とメールした 

妻の名前で受信した 
返事の中味の文字からは 
「大丈夫だよ」と
夫 ....
3日前に職場で腰を痛め 
うずくまったまま動けず 
車椅子に乗り
整形外科へ搬送され 
9年目にして初めて 
10日間の秋休み  

今日も午前10時の朝食を終え 
ほがらかな日のそそ ....
 くるるるるるる・・・ 


羽ばたいて 
空へ吸いこむ
黒影の 
鳩の言葉は訳せない 


 one は one 


   一 は 一 


 「愛」 は 「Lo ....
 昨夜の「ぽえとりー劇場」のオープニングは、京
都の若き詩人・choriさんの詩を読んだ。最近
現代詩フォーラムで彼の素晴らしい詩を読んだので、
「ぽえとりー劇場」の幕開けにもふさわしい詩の内
 ....
昨日
柿を取ろうと
腕を伸ばした塀の上から 
落っこちた親父が 
とっさに捕まった物干し竿が 
身代わりのように 
ぐにゃりと折れた 

午後
急に画面が消えたパソコンを 
電気技 ....
残業の時刻 
隣の机の同僚が ぼりり と 
飴を噛みくだいた 

「 お年寄りにもらったの? 」 

「 はい、Tさんから 」 

耳の聞こえぬTさんは 
お婆さん達の会話にいつも入 ....
服部 剛(2148)
タイトル カテゴリ Point 日付
水のふしぎ 自由詩8*07/11/15 20:07
彫刻の顔 自由詩6*07/11/14 19:24
緑の芽 自由詩4*07/11/13 19:50
「 詩人の窓 」 自由詩3*07/11/12 21:29
ウルトラマンの人形 ー江ノ電にてー 自由詩7*07/11/8 21:44
ルーアンの鐘 自由詩1*07/11/8 20:32
秋の蟷螂 自由詩3*07/11/8 20:08
「 無 」自由詩32*07/11/6 21:17
自由詩707/11/6 17:42
親子の影 自由詩3*07/11/6 17:32
宛名の無い手紙 自由詩6*07/11/5 0:12
風の絹糸 自由詩707/11/4 19:26
「 暖炉の炎 」 自由詩7*07/10/31 19:50
鉛色の街 自由詩407/10/31 19:31
深夜の老夫 自由詩407/10/31 19:12
枕木の音 自由詩507/10/29 6:35
「 空のつばめ 」 自由詩207/10/28 19:48
夫の姿勢 自由詩6*07/10/28 19:40
上司のくしゃみ 自由詩207/10/26 22:16
モーツァルトの指 自由詩4*07/10/26 21:46
カツのころも 自由詩8*07/10/25 23:13
パスカルの顔 自由詩3*07/10/25 21:26
串かつの夜 自由詩7*07/10/24 23:24
隣の荷風 自由詩207/10/24 21:12
「 卵 」 自由詩407/10/23 22:17
秋休み自由詩8*07/10/23 19:46
伝書鳩 自由詩6*07/10/23 14:37
詩人・一期一会〜chori氏「賛歌」に見る 幸せの在り処 に ...散文(批評 ...4*07/10/22 12:13
貼り紙の唄 自由詩2*07/10/20 22:03
お婆さんの飴玉自由詩6*07/10/20 17:55

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