図書室のソファーで
隣に座る青年が手にした
テスト勉強のノートを
ちらっと覗く
問6
「(第九)という代表曲を作曲した
音楽家は、次の内誰か答えよ。 」
....
昨日の疲れた仕事のメモを
丸めてゴミ箱に放り投げる
( ストライク! )
日々のユニホーム姿で立つ
少し高いマウンドは
いつもたった独りだ
バッターボックスに立 ....
街を流れる群衆の
人と人の間に
彫刻の手が{ルビ垣間=かいま}見え
まっすぐに立つひとさし指は
ひとすじの光をおびていた
昨晩は夕餉のあとに
家族みんなでテレビを囲み
遠くへ嫁いだ姉が送ったビデオを入れて
5歳の姪が懸命に踊る姿を見ていた
今朝は早くに目が覚めて
寝ぼけ{ルビ眼=まなこ}で水を入れ ....
わたしそのものである時
からだのない(風ノ人)が
わたしにかさなる
虫けらだったわたしの尻に
小さな青い灯はともり
透けたからだは発光する
わたしを囲む円周に
今あるべきものはすでに集まり
目に映る全てのものは
円周の中心にある
わたしをわたしあらしめる
蓄音機に針は落とされ
回り出 ....
蜜柑の木々が生い茂る
庭園の芝生に立つと
山の緑の間に
遠い海は{ルビ煌=きらめ}き
枝々の無数の実は
青みがかった光を帯びて
自らの歓びを
天に捧げておりました
....
混みあう電車のなかに
何もわからぬ少年が
瞳を閉じた
父の両手につつまれている
車窓の外は
今日という日を照らす
太陽を背に
一羽の{ルビ鳶=とび}の黒影が
翼を広げ ....
さりげなく立ち上がり
少女は老婆に席をゆずった
吊り革につかまる少女と
{ルビ安堵=あんど}のため息で腰を下ろす老婆の間に
見えない幸福がふくらむ
やさしいものは
す ....
日曜の床屋の順番待ちで
向かいに座る少年が
ウルトラマンの本を開いて
手強い怪獣の輪郭を指でなでる
少年の姿に重なり
うっすら姿をあらわす
30年前の幼いわたし
開い ....
長い間
部屋の隅に折り畳まれ
埃を被った
老人ホームの誕生表
空色の模造紙を開き
両端に咲く
太陽の花
まっすぐのびる
2本の茎の間に
お年寄りの名前と誕生 ....
「目には見えない神仏は
いったい何処にいるのでしょう」
わたしの問いを聞いた師は
砂を一山{ルビ笊=ざる}に盛り
{ルビ篩=ふるい}にかける
どんなに激しく振り落としても ....
バス停に置かれた
切り株に腰かけ
川沿いの道の向こうにある
斎場を眺める
{ルビ一月=ひとつき}前に
木魚の響くあの場所で
遺影の額から微笑した
老婆のからだはすでに溶 ....
手にしたペットボトルから
色水みたいなジュースを飲み
{ルビ騙=だま}されたような気がした日
長い間畑仕事をしていた
老人ホームの{ルビ婆=ばあ}やは言った
「昔は農薬なん ....
最近運動不足だったので
行きも帰りも
家と駅の間を歩き
めっきり乗らなくなった自転車が
ある冬の日の玄関で
肌寒そうに置かれてた
( 今日は休みだたまには乗るか )
....
女を抱きたいと思う
白いからだに潜む
うるんだ瞳にすける
哀しみを抱きたいと思う
街の隠れ家で
互いの{ルビ凹凸=おうとつ}をくみあわせ
闇に吐息の漏れる時
寂しい ....
北風に震える
枯葉並木の向こうへ
携帯電話の画面を見ながら
朝の歩道をのんびり歩く
ふたりの女子高生を
追い抜く
シャッターを開いた
動物病院の女医が運ぶ
{ルビ檻 ....
小さい頃
目の前に立ちはだかる
でっかい親父と向き合い
パンチの練習をした
額にあてられた
ぶあつい手に
視界を覆われ
打っても打っても届かない
小さい拳
....
わたしは欠けた器です
あなたも欠けた器です
テーブルの上に置かれた
欠けた器がむきあうと
さびしいすきまに
風のふしぎは吹きぬけて
別々だった
あなたとわたしは
ひ ....
重労働でつかれた日
夕餉の煮物に入った
れんこんのきれはしを箸でつまむ
「れんこん食べると(先が見える)よ」
というお婆さんの言葉を思い出すと
3っつの穴がぼくに笑った
....
わたしはいつも欠けている
あなたもいつも欠けている
欠けた互いがむきあうと
こころのさびしいすきまには
風のふしぎが吹きぬけて
別々だった
あなたとわたしは
ひとつです ....
昔より少しやわらかい指で
通勤バスの「降車ボタン」を
押すようになった
力むでもなく
緩むでもなく
ほどよい緊張で
ともにすごす
誰かとの間にたゆたう
絆の糸を結べる ....
「 無 」の風が吹きぬける
わたしの胸のましろい空洞から
ひとり・ふたり・・・と
かけがえのない人影がこちらに歩いてくる
きょうというひのできごとの
いいとわるいを
きめるのはやめよう
え? ということも
あとで よかった になる
はからいのふしぎをおもいたい
わたしのひとみに
うつる ....
中年サラリーマンの膝上に
大事に抱えたバスケットの{ルビ蓋=ふた}を開け
ひょっこり子犬は顔を出す
うたた寝首を垂れている
飼い主の顔を{ルビ覗=うかが}い
時折子犬は体を反らす ....
ほんものは
かぜになびいた
いなほになって へりくだる
わたしはいつも
ささいなことでいじをはり
いなほになれず そりあがる
じょうしきてきな
じょうしのこごと
....
机の上に置かれた
飲みかけの水がゆれるグラスに
一粒の太陽がひかる
パスタ屋の2階から見下ろす
銀杏並木の道を
まっすぐに人々は
みえないものに押されるように
それぞれ ....
「 愛してる 」
男が100回言ったところで
女のこころはみたされず
男は花屋へ駆けてゆき
3000円の花束を胸に
女のもとへ舞い戻る
花束を手渡す時に
互いの ....
{ルビ昨夜=ゆうべ}の仕事帰りから
だいぶ冷えこんで参りました
少し背を丸めて街ゆく人のなかに
首に巻くマフラーを風になびかせ
ひとりの老婆が杖をついていました
手袋をして
....
ペットボトルのゴミ箱に貼り紙一枚
「ラベルははがしてすててください」
点線に沿い
びりっとはがそうと思ったら
なかなか切れずにはがれない
意固地な自分を脱がない
がんこ者の ....
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