仕事帰りで我が家の門を開き
玄関まで5mの並木を通る
「 うわっぷ! 」
木と木の間のくらやみに
はりめぐらされた蜘蛛の巣に
ぼくの顔が引っかかる
(そそくさと、{ ....
なけなしの給料を下ろしに
近所のキャッシュサービスの
小部屋に行った
「 イラッシャイマセ 」
おじぎするお姉さんの
画像の上
片羽の千切れた亀虫が
6本の細足をの ....
「スライディングをして
サッカーボールを蹴った
ナカムラシュンスケ
が映るテレビを見て
小さい両手を頬にあて
幼い兄と妹は
ムンクの顔を並べる 」
と ....
それぞれに
ぽっかり開いた胸の穴
貫いてゆく
いのちの言葉
ましろい部屋の空間で
宙に浮いたペンが
血と涙の混じった文字をノートに綴る
開いた窓を仰いだ神保町の曇り空から
誰かの涙がひとつ、落ちて来た。
桃色の四角い顔で
素朴にほほえむ
ぱすも君
無数のバスや電車にのりうつり
街から街へ今日も走る
今日は職場の老人ホームで
婆さま達に囲まれて
歌って踊ってすごした ....
朝食を終えたファーストフードを出たら
偶然、夜勤明けで店内から出てきた私服の君が
駐輪場からスクーターに乗り
アイスコーヒーのストローを咥えて
立ち尽くす僕の前を走り去っていった
....
無表情に首を傾げた
自転車の整列する駐輪場の上
線路に吊り下がる
モノレールは監獄の面影で走る
昨日の重たい疲れを残し
眠りながら吊革にぶら下がる人々
....
太平洋沿岸を舐めるように
季節外れの台風が横切った日
67歳の親父は
嵐の中かっぱを身に纏い
今朝も警備の仕事に出かけた
63歳の母ちゃんも
食事のかたずけを終え
....
「 抵抗することに疲れた 」
そう言い遺してある友は
自ら世を去った
思い通りにならない日々の
不自由な鎖を巻いたまま僕は
しばらく横になっていた
ランプの灯りの下
....
朗読会の司会を終えて
{ルビ塒=ねぐら}となったネットカフェの個室で
目覚めた朝
古びたタイルの便所に入る
鏡の前に
薄桃色の花柄の
トイレットペーパーが
置かれている ....
チベットの暴動で
無数の人々が血を流し
四川の大震災で
無数の人々が命を落とし
僕の家の畳の部屋で
今も横たわる祖母は
三日後
頭蓋骨に穴を開け
脳の腫瘍にレー ....
独り暮らしの古家から
週に一度
玄関から門前に出て
杖を手にワゴン車を待つ
「おはようございます」
ドアが開いて下りてくる
孫のような青年の
腕につかまりながら
車 ....
「みんなですごした日々を
ずっと忘れずにいよう 」
卒園式の子供等は
体育館に大合唱を奏でる
心を震わせ見守る
若い母親達のすき間から
カメラのレンズは
{ルビ吾子= ....
もう会うこともない
君がくれたボールペンだけが
この手元にある
君は自らが去る前に
どんな思いを顔に浮かべ
商品棚から
このペンを手にしたのだろう
これからの日々を ....
もしかしたら
病気で半年前に退社した
若奥さんのUさんは
日々ずっこけるこの僕を
きらいじゃなかったかも?と
今さら思う
僕は特別Uさんに
ホの字だったわけでもないが
....
遠くに浮かんだ憧れを
指を咥えて見ていても
訪れること無い幸福は
舌を出して飛んでゆく
路面に映る人影の
胸に{ルビ嵌=はま}った丸い水鏡は
誰もいない夜道を往く
独り ....
カメラのレンズの向こう側
(フラッシュの光る瞬間)
やがてすべての人々は
家族も友も恋人も--------
昔のままに時間を止めた
一枚の写真に納まり
見知らぬ未来の誰 ....
「幸せの{ルビ蜻蛉=とんぼ}」が
空の何処かへ飛んでいったら
わたしは畦道の案山子となり
両腕をひろげ
ひとりっきりで立っていよう
``
への
も へ ....
一週間後に脳の手術をする
八十八の祖母の部屋に
慰めの言葉もみつからぬまま
顔を出そうとした
{ルビ襖=ふすま}の隙間から
すべての恐れを一時忘れた
安らかな寝息が聞こえた ....
一週間後の月曜日
八十八の祖母の脳内に転移した
二つの腫瘍にレーザーを当てる為
頭蓋骨に四つの穴を開けるという
三十三の孫は
何も出来ずに枕辺に坐り
祖母の呟く嘆きに
....
道を歩きながら
開いた本のなかに
在りし日の老いた詩人は独り
捲れる頁から頁へ渡り歩く
無声映画の季節
*
冬
上野駅の踏み切りの橋の上から
....
川沿いの道を
からんころんと下駄鳴らし
着物姿で{ルビ闊歩=かっぽ}する
5才の姪のかほちゃん
ほどけた帯紐に
つまづかないよう
後ろから追いかけて
地面に垂れた紐を持 ....
幻のビル群が立ち並ぶ
都会の空の彼方から
沈む夕陽の声がする
( わたしはこの国を、
お前に与えよう・・・ )
群衆に紛れた彼は
空虚に覆われた日々から
脱出する ....
ネオン街で同僚と飲んで
赤い顔ではしゃいだ夜遊びの後
やけに寂しい帰り道
終電待ちのホームに並び
線路越しに見える
広告募集中の真白な看板が
自分のこころのように見える
....
人々の行き交う夕暮れの通りに
古びた本が
不思議と誰にも蹴飛ばされず
墓石のように立っていた
蹴飛ばされないのではなく
本のからだが透けているのだ
聴いている
時 ....
傷口をいじれば
いつまでたっても治らない
そう知りながら
この手は気づくと触れている
もう忘れていたあの日の傷跡を
いじり過ぎた浅黒い影が
遠い過去の空白に
うっすら ....
昨日の僕はくたびれて
仕事の後の休憩室で熟睡し
帰りのバスを待つ
怠け者の朝
ベンチに腰掛け
一冊の本を開く
昔々、見知らぬ地へ流された
無一文の身で額に汗して畑を耕 ....
凡庸なひとりの人の内側に
身を隠す「豆粒の人」は
いつも光を帯びている
脳裏に取り付けられた
あるスイッチが押され
心の宇宙に指令は下り
凡庸なひとりの人の内から
....
田舎の駅の階段を
せーらー服の少女は軽やかに上り
ひらひたと舞うすかーとのふくらみに
地上と逆さの重力が働いて
自ずと顎が上がってく
まったくいくつになっても
男って奴ぁい ....
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