それから人びとは浜辺にゆっくりと集まって
きた。ぬめぬめした、軟体動物のような朝、
塩辛い希望を胸の前に抱えて持ち、人びとは
次から次へと、前の扉から次の出口へと、通
りぬけるように浜辺に集ま ....
生まれて間もない赤ん坊が眠る部屋の
窓枠に一羽の{ルビ鶫=つぐみ}がとまって鳴いている

ききききくわっくわっ

鳥の言葉を翻訳すればこうなる
――この家に新しい人が増えたよ
  次の世 ....
私は眠る
掛け蒲団の左右を身体の下に折りこみ
脚をやや開きぎみにし
両手を身体の脇にぴったりとつけた
直立不動の姿勢で
寝袋にくるまる旅人のように
防腐処理を施され
身体中を布で巻かれた ....
 田村隆一は太平洋戦争後の荒廃した社会を的確な詩語で捉え、戦後詩壇を代表する存在になった。と、日本の詩の歴史ではそういうことになっているらしい。僕は言うまでもなく戦後生まれ、それも高度経済成長の真っ只 .... 今日もまた水平に生きてしまった
床に零れた水のように
だらりと二次元に広がる憂鬱
その中で私は
音楽のような殺意を胸に秘めて日常に微笑む
空に観察されている
私は何者でもない

冬の山 ....
青空 青空が見えるよ ねえ
窓を開けてごらん 目を開けてごらん

頭を上げてごらん 見てごらん ねえ
寒さふるえる 透き通る 青空だよ

君は青い人 青い 未だ人ならざる人
空の青 静脈 ....
こごえる
声の
淋しい温度
舌は口の中に引きこもり
のぼってくる苦い味にじっと耐える
やわらかく
ただやわらかい音のままにこごえる
もえることのない白い声
たとえばここで
たとえばそ ....
第一の幽霊

{引用=私は待っています。
この地表に縛られて、待つこと以外に何も出来ないのです。誰を、何を、待っているのか、と問われても、私にはまるでわからず、それでも、
私は待っているのです ....
夜、

{引用=背後に
人は身体をこわばらせる
何がよぎったのか
誰があとをつけているのか
この暗闇の中では
振り返る勇気はなく
確かめるすべもなく
人は
いくつもの時を越えて
 ....
ここから先は人でないと渡れない
その橋を歩く
時は待っていて
ずっとおまえのために待っていて
待ちくたびれてさっさと行ってしまった
置き土産に
こんなに寒い冬を残して

ここから先の霜 ....
橋を渡る
ここから先であえて水の味を嘗める
遠い背後で冷たくなった人びとは
絶句したまま 熱い指を池の面に浸す
最初から順番に数を数えて
今日もまた
汚れた者がひとり
明日もまた
汚れ ....
ひとつの認識から始まる憂鬱
鶏が鳴く
もう朝である
月を背後に負った者は
木の幹の太さを計測して
空にまで届かない溜息を吐く
星の下につぶされた者は
動かない時計を見つめて
色のない繰 ....
混沌の中に
夜はある
夜の中には数多の息が
凍りついたまま存在していて
人々はその下で
ぶざまな眠りを眠っている
君は
やがて忘れ去られる
それが君の運命である
目的を持たない淋しい ....
あなたの子供は駈けていきました
あなたの急を知らせに
道の向こうの
そのまた向こうまで
私が知らない間に
他の多くの大人たちが
それぞれの世界の片隅で
何も変えられないでいる間に
あな ....
陽が落ちる
葉が落ちる
その中に埋もれて
誰かの手が落ちている
手首から先を見事に切り離されて
隠れるように静かに余生を送っている
枯れた手の来歴は誰も知らない
気ままな散歩の途中で見つ ....
ぷうわり、ぷん
ぷうわり、ぷん

君はシャボン玉のことをこう呼ぶ
膨らんで飛んでゆくさまが
ぷうわり で
弾けて消えるさまが
ぷん なのだろう

ぷうわり、ぷん
ぷうわり、ぷん
 ....
今夜も 僕はほんの少しだけ世界を忘れる
飛び上がって
ひと思いに刺すことが出来ずに
沈みながら
血迷った逆流に身を躍らせる
時計は残された時を静かに刻み
やせおとろえた夜の下で
僕は僕の ....
果てしない葉の落下
星は脱獄囚のように走り出す
ヤニ臭い黄色い歯が喉笛に噛みつく
もう二度と
歌など歌えないように
新しい蝕の始まりだ
みんなが赤い声を上げて君を待っている

またひと ....
道は渋滞で
バスの中は混み合っていて
みんな一日の疲労でうつらうつらしていて
外はもう真っ暗で
バスはなかなか進まなかった

ドアの側に坐って
ぼんやりと前を見ていた
ふと目に留まった ....
人ひとり
やっと通れる狭い森の道で
ひらひらと
枯葉が舞っている
ひらひらと
枯葉が落ちている

冷たくなり始めた風に押し流されて
ひらひらと
枯葉が舞うのは当然のこと
ひらひらと ....
夏のかかとは海を渡る
渡って向こう側の大陸へとたどりつく
潮くさいにおいに魚どもも逃げ出し
伸びる砂浜ほどの清潔さを持たない

夏のかかとは山を渡る
渡って峰から峰へと踏み越える
傲慢な ....
公園の片隅で花が咲き
人びとの心の中にも花が咲き

そよそよと
良い香りの風が吹き
そわそわと
気のはやりがちな人はあせり出し

山の斜面にも花が咲き
人びとのくらしの中にも花が咲き ....
僕は淋しかった
または、淋しくなかった

だから 僕は森を歩いた
だから 僕は空を仰いだ
しんしんと
珍しくも降ってくる雪に合わせて
その降ってくる音に合わせて
僕は息を吐いた

 ....
宇宙の深淵から
水がひとつぶ
滴り落ちる。 。 。
と、
いのちたちはいっせいに水際に集まり
それぞれに
祈りの言葉をつぶやく
遠い場所で起こった恩寵に
いのちの囁きは共振し
星の瞬 ....
荒野の中に人柱が建つ
立ったまま
石と化して
柱のように天に伸びる人の残骸
人生に遅刻した者
あるいは 人生から早退した者の
群れが
向日葵のように咲き揃っている
そんな人柱の
列石 ....
神が不在の夜
その間隙をぬって
あくまでも地上的な硬い何かが
天上の淡い光を覆い隠す
その時
人びとの喉はゆっくりと絞められ
背徳の快楽に意味のない言葉が虚空にばらまかれる
昔日の絵の中 ....
みんなと合唱しようとして
必死で声を裏返した

みんなから遅れすぎて
輪唱になってしまう
近所には小さな墓地があって
近所には野良猫がたくさんいて
墓地の奥は鬱蒼と暗く
木々が生い茂り
墓地を取り巻く壁は
どこまでも白い

その白さに毎朝
昇ってくる日の光が反射し
仕事に ....
俺の血液型はO型です
大型じゃありません
O型なんです
俺は血が薄い男で
時々頭がくらっとして倒れそうになります
美しい女性を目撃したときも
頭がくらっとして倒れそうになりますが
それは ....
岡部淳太郎(329)
タイトル カテゴリ Point 日付
難破した船の来歴[group]自由詩4*05/2/28 1:52
祝福自由詩2*05/2/27 13:11
夜毎の木乃伊自由詩11*05/2/22 6:01
田村隆一(その詩行のかっこよさから語る)散文(批評 ...30*05/2/20 21:36
私たちの空自由詩9*05/2/19 9:48
僕が病気であるかどうか、誰も知らない自由詩2*05/2/17 22:02
寒い声自由詩3*05/2/15 20:37
幽霊たち[group]自由詩3*05/2/13 11:41
夜、幽霊がすべっていった……[group]自由詩9*05/2/11 19:07
冬に見る夢自由詩5*05/2/9 0:06
水瓶座の朝と夜自由詩6*05/2/6 1:01
遠い旅自由詩6*05/2/2 20:08
忘却[group]自由詩6*05/2/2 20:07
駈けていった[group]自由詩12*05/1/30 21:29
落手落葉[group]自由詩4*05/1/29 2:25
ぷうわり、ぷん自由詩5*05/1/23 17:08
午前0時の黙祷自由詩3*05/1/21 0:17
境界線をまたぐ自由詩2*05/1/18 19:10
求めています自由詩10*05/1/16 18:33
歌 4自由詩3*05/1/15 22:30
歌 3自由詩3*05/1/15 22:29
歌 2自由詩3*05/1/14 22:10
歌 1自由詩5*05/1/14 22:09
水宇宙自由詩6*05/1/13 19:15
人柱自由詩4*05/1/13 18:40
月蝕自由詩8*05/1/10 19:57
ハーモニイ自由詩2*05/1/10 7:18
墓地の壁[group]自由詩7*05/1/9 19:10
血が薄い男のバラッド自由詩4*05/1/9 17:17

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