{ルビ一滴=ひとしずく}の涙が
{ルビ渓流=たに}となり
やがて河となって海に溶けてゆく
若かったあの頃はとても純粋で
年が経つほどに灰色になって
ぼくには些細なことが当たり前になった
....
暗い森に彷徨い
ぼくは大きな林檎を探していた
森の入り口にそそり立つ老木に林檎の在りかを尋ねると
「三丁目の角を右に曲がり百歩あるいたらcafeのランタンに聞けば良い… 名前を聞かれたら決して答 ....
サクリとトーストを{ルビ齧=かじ}り
ベーコンエッグ トマトにレタス アイス珈琲
マヨネーズは欠かせない
これがぼくの朝食だ
ふと…
朝方に見た夢を振り返ってみると
夢の中で夢をみ ....
夢の中で夢をみる
ぼくの礼服はスリーピース
着ている人は見ることもない
{ルビ誂=あつ}えてから40年の時を過ぎ
いまもジャストフィットする
鏡に{ルビ映=うつ}るぼくは少し若く見えた
火葬場の職員が骨の ....
帆柱の{ルビ帆布=はんぷ}は風に散り
ボロボロになった海図を胸に
白骨化した船長は錆びた剣を掲げ
地獄から呻くようなかけ声でヨーソロー! と
かけ声を響かせた
白骨の水夫たちは深海魚のように ....
コトコトと
ゴボウと牛肉の甘煮を作る
グラスを傾けながら
美味くなれよと
酒気帯び呪文
故人を偲び
独り
骨を拾った帰り道
西陽がとても眩しくて
何も見えない
いっそあの夕陽に向かって
ふたり 空の果てまで行ってしまおうか
何時も一緒に{ルビ詩=うた}を歌っ ....
冬の朝なのに
ぼくはアイス珈琲を2杯飲む
夜明け前に紡いだ夢を反復し
物語を繋ぎあわせてみる
これがぼくの日課なんだ
悲しみのピエタ
貴女はぼくをそっと抱きしめ
紅い涙を流してくれた
ぼくは復活することはないけれど
貴女に{ルビ抱=いだ}かれ
子守歌を口ずさんでくれた
嗚呼…
{ルビ悲母=ひ ....
青き狼は
白き雌鹿をともない
旅は千里を越えた
野を駆け 河を渡り
此処までやって来た
壁を打ち破り
数多の屍を乗り越え
果てない天地を追い求め
日々の至福を味わった
遥 ....
秋過ぎて
名残の風は
漂泊の
想いで刻む
たむけ花
{ルビ荼毘=だび}に付したる
{ルビ骸=むくろ}には
五色に浮かぶ
{ルビ懸想文=けそうぶみ}
てのひらほどく
文様も
....
真夏の虹になったきみを追いかけて
どれだけの夜を過ごしただろう
失われた時は戻らずに
風に揺れる木立をサクリと歩いている
こんなに想っているのに
こんなに感じているのに
空に飛んでいっ ....
深海に眠る英霊たちよ
君たちの骨を拾う者はいない
ぼくに出来ることは
ただ歌い
祈るだけ…
君たちの血肉で
ぼくは此処にいる
心やすらかに眠り給え
酔い酔いて
はるばる来たり
漂泊の
独り旅ゆく
冬の路
背にかかる
粉雪払い
往きゆきて
弥生の夜を
垣間見る
漆黒の
夜空舞い散る
さくら花
{ルビ闇路=やみじ}の ....
{ルビ金色=こんじき}の小雨降る黒織部
久々に薄茶を{ルビ点=た}ててみた
煩雑な日々を忘れ
紆余曲折の路を振り返り
そっと息をつく
これから歩く白い道を占い
手のひらに包み 温め ....
伽羅の香を
独り静かに
聞く夜は
墨すりて
香る龍脳
沁みる夜
白檀の
甘き香りに
酔い深く
龍涎香
男はいざと
紅求む
やすらかな君の寝息をそっと聴き
独り静かにグラスを傾むける
まどろむ君に{ルビ詩=うた}歌い
もう一杯とキッチンに氷を求め
明日の天気を占った
酔い夢を…
否! 良い夢を
....
密やかに
眠りに就いた
きみ想う
銀幕に
きみの姿を
映し観る
{ルビ昨夜=ゆうべ}観た夢の中で
ぼくは麒麟になっていた
千里の空を駆けて
鳳凰となったきみを求め
何処までも 何処までも 空を駆けてゆく
遠い空の彼方
彼らは今も胸の中に生きている
....
らぁ~! らぁ~! と 叫んだ夜は沈みゆく
静か過ぎて聴こえない
破短調{ルビ奔=はし}る{ルビ宵=よい}に酔う
突破する壁は厚くて泣き濡れた
ドクドクと胸は彼方に飛んでゆく
....
頭蓋骨から足の先まで写してきた
あぁ… 美しいモノクローム
{ルビ自惚=うぬぼれ}れて
躰の骨を丁寧にたどり
骨格標本になりたくなった
かくとだに
想いを馳せて
きみはいま
祈り捧げる
満月の夜
たらちねの
忘れた歌を
想い出す
今宵静かに
ぼくは歌うよ
あしびきの
夏に登った
山なみに
今はもう亡き ....
昨夜
オマエから電話があり
今週末にまた骨を拾うことになった
オマエの父さんは理性と優しさをそなえ
オレを何時も歓迎してくれた
二十歳の真夏日にビールをしこたま飲みながら
ぼくの屁 ....
冷やりとした洞窟をたどり
やがてアダージョが聴こえて来た
底に広がる幾万の骨が静かに共鳴しながら
ぼくを迎え入れてくれる
あぁ… 何と美しい光景か!
真夏日に
ビールもてなす
友の父
真夜中に
グラス傾け
訃報しる
酔い酔いて
一杯二杯
もう一杯
ウイスキー
琥珀は誘い
誘われて
あまやかな
味たる酒は
琥珀色
紅色の月は重く{ルビ唸=うな}り
不穏な気配を空に満たしていた
逃げようとしても足どりは重く
赤銅色の光に照らされて
背中の地図が焼かれてゆく
公園のブランコが揺れている
誰もいな ....
暗く深いトンネルを抜けると
其処は石化した暗い時計の森だった
文字盤の針はみな狂っていて
ぼくの足音だけがサクリ サクリ…と空に消えていく
遠くから
ギリッ ギリッ… とネジを締める ....
月の昇らぬ砂浜に
{ルビ唐紅=からくれない}の空眺め
忘れた歌を想い出す
衣を染めた{ルビ白鳥=しらとり}は
{ルビ空=うつ}ろな波に身をまかせ
{ルビ還=かえ}る{ルビ棲家=すみか}を ....
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