年末の満タンの汽車の中は
タバコとナフタリンと
金属が焼けるような暖房の匂い
腰から下ばかりの景色がきゅうくつで
ひとりひとつの受け持ちバッグに
僕はうんこ座りでつかまっていた
突 ....
いつもの時間にいつもの道を通り、仕事場へ向かっていた。私にとってあまりにありふれた時間に、このまま老いまで直行させられるように感じられて、私は横道にそれてみることにした。
出来るだけ細 ....
暗闇に仄かに現れ散りゆくは張り付けの身のわたくしの恋
なにげなく挨拶がわりにキスをした君の肩さきこの手のひらで
ふくれたる下唇のたて皺に我を抑えし格子に寄りて
その ....
暗号化されたアートなるものを
読む、観る、聴く
体の芯を震わせる信号は
アナフィラキシーによって増幅される
農夫は頭蓋骨に侵入するたび
種をまき、水をかけ、肥料をやる
育つ苗に ....
私のような、ろくに文章も読めない、ろくな文章も書けない者が、詩などいう物を書いている。何故書くのか、といえば、おそらく脳ミソのどこかにある、詩の世界に通じる扉を、私の誰かが開くと、黒い闇の手が伸 ....
黒い霧が晴れると
激しいのどの渇きに気づく
連なる衝撃をベースに
通学路が揺れる
安物のスニーカーは脳に響く
学生帽に埋まったタクシーが追い越していく
ブルジョアか?
建物までの ....
ビリビリっとくる電気が恐ろしくて
車に猫パンチを食らしてドアを開ける君
最近君の猫が死んだばかりだから
のり移っちゃったのかと思っていると
レジ袋から覗いている
ちくわに、かまぼこ、かつ ....
公園の桜は葉がそろった
イモ虫は蛹を破り
羽根をのばして
眩しい空の光をめざす
遠いうしろで電車ごっこの子供たち
運転手は僕だ!と叫ぶ子に
皆は、ずるい、ず ....
捧げる
俺の赤い血を
君の白い肌に
黒い眼に映った俺の姿の奥で
快楽にまみれたさもしい影が
俺を嘲笑っている
どれだけ繕おうと
全てを見透かして
どこまでも俺を追ってくる ....
愛の言葉は種のようで
堅くて食べられない
と天袋に投げ入れた少年
時を隔てた小さな箱で雨もりに悩むころ
忘れていた、遠い時の種が芽をふく
愛を包んだあのひとはもう居な ....
にわかに降りだした雨を背にうけ
老人は湖の畔を歩いている
大木の梢に目をやると一礼をして枝を折り
数枚の葉を丁寧にむしった
湖に向きなおり何かを見つめている
まもなく雨は上が ....
一
貴女にだけ焦点があたり
貴女をひきたてるためだけに
周りはほのかな額縁になって
動く絵画が私を石にする
二
机の隙間は敵地の運河
岸の高台には王女の横顔
幾多の ....
花が散ってしまったことを
貴女はカレンダーを見て知る
「今年も会えなかった」
ただよう匂いに引き付けられて
蝶のように舞う貴女の姿を
来年は見られますように
緑が顔を出しは ....
幼児が歩く
しかしヒーローはただ歩かない
片腕を肩から大きく振りまわし
降りかかる悪霊を払うように
彼に集まる熱い情念が見える
トルルー、ルー
瞳はまばたきに邪魔されず
遠い ....
滑らかな曲面を
月明かりが遠浅の影で濡らし
吹き寄せる潮風は甘い薫りをはらんで
かすかに震えるさえずりと共に
紅潮した私の耳をかすめる
青い石をうずめていた筈の砂を
しだいに満 ....
街路樹を支える組み木が
窮屈になりつつある様子
いつか外されて炎に消えるのだろう
スッキリとした詩文をと思い
言葉を組み換え組み上げ
いつまでも決まらず
そうしている間 ....
如何ように描かるるべきかと
花問いて舞いて乱れて
我立ち尽くす
誰がために
愛をしぼりて咲く花か
実にやどらせる
生わぬ命よ
忘れさす末期の雪に
霞みゆく
....
薔薇にとまった蜻蛉の複眼が
通りすぎる女を見る
巨大な硝子張りのビルディング
窓一枚一枚に映し出される
其れ其れの場面の
姿を、姿に、姿へ、姿が
パイプオルガンのパイプを通り
....
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