事実/岡部淳太郎
 
もう何年も昔のことで、そのために遠い背後に過ぎ去っ
てしまったように思えるのだが、それでも時おりこうし
て思い返してしまわざるをえないほどに、いまでもそれ
は私のすぐ隣にある。あの時、私は事実に耐え切れずに
泣いた。はじめてと思えるほどの涙を、声を挙げて流し
た。そんなふうにして事実の重力に引き寄せられて、引
き裂かれそうな思いをしたことは、それが最後であり、
それ以来絶えてない。あの時の私は目の前に突きつけら
れた事実の厳しさに、それに引っ張られているだけのよ
うに思えたのだが、本当は事実と私との間で絶え間ない
相互作用が起こっていて、それが私を悲しませていたの
だった。要
[次のページ]
   グループ"3月26日"
   Point(4)