三月のドキュメント/岡部淳太郎
はそれが脳裏にこびりついて離れなかった。
その時、私の世界は一瞬にして
変った。それまで確固としてあったものが脆
くも崩れ、終った。それを境に世界は色を失
いあやふやなものとなり、すべてが非現実の
蟻地獄の中へとのみこまれていった。数日後、
妹が死んではじめて電車に乗った時、痛切に
それを感じた。いまここにいる私は他の人々
と同じように会社に出勤しようとしているが、
その中には見えない嵐が荒れ狂っていた。人
人も新聞や本を読んだり眠ったりお喋りをし
たりしていながら、いまここにいる私につい
数日前に起こったことを知らずにいた。一人
が死んでも、世界は変らず
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