破片
岡部淳太郎

      ――Sに



ばらばらにされる
    (君のせいで)
        俺が歩く その先々で
俺は自らの破片をばら撒いてゆく
    路上に
        天井に
            水上に
    ばら
        ばら と
            ばら撒いて ゆく

それは 言葉のかたちをしている
    または
    血の塊 醜悪な肉片
        あるいはただの 千切れた草

ばらばらにされる
    (君のせいで)
俺は不完全な無数の破片
君は完全なひとつの実体
    夜の声帯をふるわせて
        石のかたちで歌が降ってくる ように
日々の虚像を突きぬけて
    ばらばらに
        ぼろぼろに
            されてゆく
    (君のせいで)

ああ!
    ああ! という声
        または叫び
言葉にしてはいけない
    言葉にしてしまったら
        あまりにも不吉すぎる
だから ああ!
    俺は言う
        俺は叫ぶ

君についての感嘆符を
    君についての休止符を



    「         」



    叫ぶ
ああ!

ばらばらにされる
    そう すべて
    (君のせいで!)
毟られた花弁のように
    俺はばらばら
散りゆく枯葉のように
    俺はばらばら
無政府主義の 靴下
    革命を標榜する 帽子
妨げられた金具の行為によって
    意志するところとは違うものを
        掴まされる
俺はぼろぼろ
    崩れた卵
    (君のせいで)

俺の破片が
    世界中に散らばる
        世界中を覆いつくす
破片の物乞い
    破片による 世界侵略
        だが しょせんは破片
破れた欠片
    最初から
        破(敗)れることが約束されている

ばらばらにされる!
    (君のせいで)
        俺の思っていることはたしかだが
君の思っていることはわからない
    だから ばらばらなんだ
        だから ぼろぼろなんだ
幽霊とともにしか
    在ることができない宿命
        と戦うために

        俺は生きているのか

ああ!
    (君のせいで)
        雨がやってきて
ばらばらになった俺の破片を
    濡らし 押し流す
        いまや数億の破片に
分かたれてしまった俺が
    ただひとつ
        望むことがあるとすれば それは
復元不能なほどに
    ばらばらになり
        ばら撒かれた
俺の破片を
    一種の珍奇な骨董品であるかのように
        誰かが見つけて
誰かが拾って
    そのふところで
        暖めてもらうことだ

(それは君で
    あるかもしれない)
(それは君で
    ないかもしれない)



    「         」



ばらばらにされて
    (君のせいで)
        またひとつ破れてゆく
            裂かれてゆく
    バラ
        ばら と
            こぼれ落ちては

    立ち止まる

完全な空が
    磔刑の丘を覗きこむ
ああ!
    赦してくれよ この罪を



(二〇〇六年七月)


未詩・独白 破片 Copyright 岡部淳太郎 2006-08-25 19:07:22
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