俺たちとは呼べない俺と君
岡部淳太郎

      ――Sに



家に帰ると
君のために心をばらばらにする時間がほしくなる
俺は怪物になれるかもしれぬ
あるいはなれないかもしれぬ
そんなことを思うのもすべては
君のためであって俺は
予報された天気の通りにはもう動けないのだ
周囲のすべての人や物は
みないちように加速をつけてせわしなく
走り回っているというのに
俺の眼にはことごとく緩慢に見える
心を失くしてみれば
花も草もなきがごとしだ
俺は俗物になれるかもしれぬ
あるいはなれないかもしれぬ
俺の根性は弱酸性で曲ったままだが
そんなことを思うのもすべては
君のためであってみれば
すべての風景は俺の感情をのみこんで
止まっている!
俺たちと
けっして呼んではならない 俺と君
なぜなら君は独立していて
俺は見事なまでにひとりなのだから
家に帰り
君のために心をばらばらにすると
その破片のひとつひとつを手にとってたしかめる
そしてそれらを両手に抱えて
俺は眠りこむ
心を失くしてみれば
星も月もなきがごとしだ
俺は水平に置かれた額縁の中に納まり
ひとつの静物となる
(だが 誰が描くものか)
また明日になれば
外に出て
ばらばらになった心を
君のために元通り縫合しなければならないのだ



(二〇〇六年六月)


未詩・独白 俺たちとは呼べない俺と君 Copyright 岡部淳太郎 2006-08-25 19:07:17
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