黒い針金
佐々宝砂

朽ちた栗の切り株のそばアシグロタケ
硬くて喰えないのだけど
それなりに旨いダシがでるらしいので
ちょいとひっくり返してみたら

みたことのない黒い甲虫がいて
鮮やかな赤い星を背負って
せっせとアシグロタケを喰ってた
お食事中失礼しましたとキノコを戻す


森の木立の下は昼日中も薄暗い
その暗い中にヤマビルが
あんまりたくさんいるもので
おっかなびっくり地面をみながらあるいたら

みたことのない黒くて細いキノコが
地面から突き出てる
ひっぱると抵抗もなく簡単に抜けて
キノコの下には一匹の蝉が


一種類のキノコだけを喰う
一種類の虫がいて
一種類の虫からだけ生える
一種類のキノコがあって
それはまさしく宿命で

たったひとつ
自分を生きながらえさせる存在と
出会ったがゆえに
その存在を
食らったがゆえに

かれらは生きる


恋人たちの小指のさきが
赤い糸でつながれるならば

虫たちのマルピーギ管と
キノコたちの管孔は
けして切れることのない
黒い針金で
つながれているに違いない


自由詩 黒い針金 Copyright 佐々宝砂 2006-08-06 11:22:25
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