世界中の甥
岡部淳太郎

夜 眠ろうとすると
世界中のあちこちから甥がやって来て
カブト虫を探してくれと言う
逃げてしまったらしい
眠くてもしかたがない
夜はまだ長いから
大勢の甥たちと一緒に
カブト虫を探してやることにする

外に出て
野原に出て
大勢の甥たちと一緒に
カブト虫を探す
彼等は世界中から僕のもとに集まってきて
口々に言う
カブト虫はどこ?
カブト虫はどこ?
女の子よりも
カブト虫の方が好きな年頃なのだ

彼等の母親はみんな死んでしまった
みんなどこか遠くへ
彼等の知らない遠いところへ行ってしまった
だから僕は 夜にもかかわらず
彼等と一緒になって
カブト虫を探してやることにする
自らの疲労のために
眠っている場合ではない
救われるべき者を救わなければならない
彼等はこれまで
充分に救われてこなかったのだから

彼等が大きくなって
世界というものの複雑さと怪しさを
知ってしまう前に せめて彼等に
素敵な十字の組み方でも教えてやるか
だが いまはとりあえずカブト虫だ
世界中から集まってきた甥は
口々に言う
カブト虫はどこ?
カブト虫はどこ?
そう言いながら
世界の暗さの前へと
一歩ずつ近づいている

カブト虫はきっと
どこかの道の行き止まりで
その角を休ませているのだろう
でも まだ見つからない
世界中から集まってきた甥は
それぞれに泣きながら
口々に言う
カブト虫はどこ?
カブト虫はどこ?
僕たちはまだ
見つけることが出来ない
ああ
もうすぐ夜が明ける



(二〇〇六年七月)


自由詩 世界中の甥 Copyright 岡部淳太郎 2006-07-09 22:01:18
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