赤のために
佐々宝砂

処女性は半減してゆく、
いちどの行為で半分に、
いまいちどの行為でさらに半分に、
しかしけしてなくなることはないのだ。

雨音を聴きながら少女は肉に舌を這わせる。
それは反応しない。

ベッドに散乱する何冊もの書物。
開かれた雑誌の見開きに、
極彩色の解剖図。

床にあるものは、その、相似形。

赤い壁にもう冷たい赤を塗りつける。
赤は熱だけではなく鮮烈さをも喪失している。
新しい赤をよこせと天使が威嚇する。

降り止まぬ雨音に少女はふと悲しみをおぼえる。
悲しみは懐かしみに似ている。

人間性は半減してゆく、
いちどの行為で半分に、
いまいちどの行為でさらに半分に、
しかしけしてなくなることはないのだ。


6月21日. 2001


自由詩 赤のために Copyright 佐々宝砂 2006-06-21 22:18:28
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