メイド喫茶検討会 議事録 01
Monk


「なんかTさん、メイド喫茶行ったらしいよ。年末に」

 なんですと。 (※Tさんは会社の同僚)
 
 そりゃ、あれですか。ご主人様おかえりなさいませ、のあれですか。
 
「あーそうらしい。ってあんまり詳しく聞いたわけじゃないんだけど」


 というわけで昼飯を食いながらメイド喫茶の話をしていた。僕は行ったこと
がないし、多分これからも行くことがなさそうなのだが、世の中では評判じゃ
ないですか。いろんな意味で。たしかに目のつけどころはいいじゃないか。メ
イドさんが給仕してくれる生活なんてのは庶民には無理じゃないか。あーでも
こないだマンションの見取り図を見てたら「メイド室」ってのがあったよ。な
んだろうあれは。メイドが詰まっているのだろうか。それとも専属メイドさん
の休憩所なんだろうか。謎だ。
 ともかくそこがどんな場所でどんなシステムで甘いのかしょっぱいのか世知
辛いのかアットホームなのか知りたい。きっと僕は何か勘違いしているはずだ。
実状を把握しておかなければならん。あのーなんだ、報道にたずさわるものと
して、とかそんな理由で。
 
 
「しかも高級メイド喫茶らしいよ」
 
 高級! それは何が高級なんですかね。
 
「完全入れ替え制だとか」
 
 完全、入れ替え!
 ってことは一人ずつ入るわけですかね。
 
「いや、10人とか20人で60分で入れ替えなんだとか」
 
 なんだよ。単なる時間制限ですか。
 私はまたてっきり独り占めで、入口から入った瞬間にメイド軍団がずらっと
 両脇にならんで「おかえりなさいませ」とこうべを垂れるのかと思ったよ。
 で、ちょっとキツ目の(でも実は恥ずかしがり屋の)メイド長が向こうからツ
 カツカとタオルを持ってやってくるのかと思ったよ。
 (ちなみに彼女は武術にも長けていて、敵が襲ってくると華麗な鞭さばきで
  戦います)
 
 というか何が高級なのかね。
 
「さぁ?内装とかメニューがじゃない?」
 
 ぐ。なんだよ、それじゃ高級喫茶店じゃないか。メイド喫茶としての高級さ
 は追求されてないじゃないか。
 
「あーでも。
 コーヒー頼むとコーヒーにミルクと砂糖を入れてかきまわしてくれるらしい」
 
 ほう。それでフーフーもしてくれると。
 
「いや、それはせんだろう」
 
 中途半端だな。
 じゃあ、耳かきをしてくれたり、洋服のボタンが取れていたらつけてくれた
 りもせんのか。
 
「知るか」
 
 
 店によっていろいろ違うんだろうがおおむねウェイトレスがメイド服である
ことがメイド喫茶の条件らしい。例えば「おかえりなさいませ、ご主人様」と
いうのは別にあらゆる店での決まり事ではなく、普通にいらっしゃいませの店
もたくさんあるようだ。ほら、やっぱり勘違いしていたじゃないか。
 あと男性客はご主人様だが、女性客の場合は「お嬢様」らしい。おーこれも
いいですよ。お嬢様はメイドにきつくあたるわけだ。コーヒーを頼んでおいて、
「あら?わたくし紅茶が飲みたいですわ。作り直していらっしゃい。まぁ、何、
その反抗的な目つきは」というやりとりが店内で交わされるわけだ。(交わされ
ません)
 
 メイドリフレなるものもある。リフレクソロジーinメイドだ。ここなら耳か
きくらいしてくれるかもしれない。美容室もあるようだ。居酒屋、カレー屋、
メイド服を着ていればなんでもいいのか。いいらしいよ。そうか。
 あれはないんですかね。メイド・ハウスクリーニング。メイド服で掃除して
くれるの。で壷を割っちゃったりして「バ、バカモノ!その壷がいったいいく
らすると思っているのだ。お前ごときにはとうてい払える代物ではないのだぞ。」
「もうしわけありませんっ、ご主人様」「ふむ、まぁワシも鬼ではない。どう
するかは考えようじゃないか」「ご主人様・・・」「とりあえず、あとで部屋の
ほうに来なさい」というやりとりがされるわけだ。されるんだよ。
 あとメイド・お手伝いさん。お手伝いさんがメイド服でいろいろ世話をして
くれるの。ただのメイドじゃないか。
 メイド・看病。病気のときに呼ぶとメイド服姿で看病してくれる。基本的に
医療資格などはないのでやれることは額の濡れタオルを変えたり、お粥を作っ
たり、オタオタして逆に倒れたりするくらい。まぁ萌えながら死んでいくのも
悪くないでしょう。
 
 
 ところで。
 一つだけ腑に落ちないことがあるのだが。
 
「ん?なに」
 
 客にとっては自分がそのメイドのご主人様になるわけだろう?
 
「そうだな」
 
 となると店内には10人、20人のご主人様がいるわけだよな?
 
「まぁ、そうだな」
 
 で、1人のメイドが何人かのお客、つまりご主人様の給仕をするわけだよな?
 
「うむ」
 
 おかしいだろ。
 かけもちかよ。
 さっきまで自分のことを「ご主人様」言ってたメイドがだよ?
 隣の席のどこの馬の骨ともわからん輩に対して同じく「ご主人様」ですか?
 しかも目の前で。いったいどういう多夫一妻制だよ。
 
「妻じゃないだろ」
 
 そもそもだな。
 メイド→ご主人様: 奉仕
 ご主人様→メイド: 独占欲
 これが絶対の構図じゃないのか。
 普段はエロバカなご主人様だけどいざとなったら「アリサは俺のメイドだ!」
 「ご主人様・・・」みたいな展開がお約束じゃないか。全然まちがっとる。
 
「俺に言うな」
 
 世の中のご主人様どもはそれでいいのか。満足なのか。
 自分のメイドが他の屋敷でまた別の男をご主人様にしていることに満足なのか。
 否、断じて否。
 これは明らかに偽りだ。
 メイド喫茶という名を借りた虚実、虚構の世界、虚構のご主人様!
 彼らは実際にはご主人様でもなんでもないくせに、自ら思いこむことでご主
 人様を演じようとしているに過ぎない!
 
「それがメイド喫茶だろ」
 
 ま、そうだな。
 
 
【つづく】


散文(批評随筆小説等) メイド喫茶検討会 議事録 01 Copyright Monk 2006-03-05 17:04:52
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