弱虫ジミーの話
ナイチンゲール

ジミーは他の子よりずっと背の小さな少年だった
もし取っ組み合いになったら自分は絶対に勝てっこないと分かっていた
だからジミーは喧嘩が大嫌いだった

みんなと遊ぶ時いつもジミーだけ悪者役だった
みんなは弱虫ジミーはさっさと家へ帰れといつも馬鹿にした
それでもジミーはみんなの尻にくっついていた
一人でいる寂しさよりずっとマシだったから

その日はみんなで公園で遊んでいた
ジミーだけがオニでみんなは捕まらないように逃げ回っていた
たとえ誰かを捕まえても、また必ず自分がオニに戻される
だからジミーは追いかけるふりをするだけで捕まえようとは思っていなかった

そんなやる気のないオニにすっかり飽きてしまって
みんなは逃げ回るふりをしながらジミーだけを残して他の遊び場へ行ってしまった
ジミーはそれでもみんなを探し続けた
もう公園にいるのはいつもベンチに座っているじいさんだけなのに

いつも自分達の事をじっと黙って眺めているじいさんの事を
みんなは悪い魔法使いと呼んで嫌っていた
ジミーはそんなじいさんの目の前を半ベソをかきながらウロウロしていた

「ジミーや」
突然呼びかけられてはっと振り返ると
いつも置物みたいにベンチから動かないじいさんが目の前に立っていた
「お前さんにこれをやろう」
それは古くさいボロボロのお守りだった

「これはな。ワシが若い頃お供した勇者ポルンガが付けていた勇気の守りだよ」
ポルンガなんて弱そうな名前の勇者聞いたことないよ

「ポルンガは相当な弱虫でな。そう、まるでお前さんみたいに。
ちょっとでも怖いと思ったら戦う前から一目散に逃げ出すような奴じゃった。
ところが、その頃ワシ等の村を毎日襲いに来る山賊達に大好きだった両親を殺されてな。
その次の日、弱虫ポルンガは勇者ポルンガとして勇敢に立ち上がったんじゃ。
悪い山賊達を退治してやろうとみんなに呼びかけた」
どうして?ポルンガは弱虫だったんでしょ?僕みたいに

「ポルンガは両親が殺された晩に女神アルシスに祈ったんじゃ。
どうか僕に勇気を。どんなに強い相手にも立ち向かえる強い心を。
女神アルシスはその願いを聞き入れて、ポルンガにこの勇気の守りを授けたんじゃ。
勇者ポルンガはそれは強かった。何物も恐れぬ勇者の心を持っていたのだから。
山賊達をあっと言う間に退治した勇者ポルンガはワシにこう言った。
この勇者の守りはもう私には必要ない。
だがこの世界にはきっとこの勇気の守りを必要としている人が数え切れないほどいるはずだ。
そんな人にこの勇気の守りを渡してあげてくれ、とな」
それを、僕に?

「ジミーや。優しい心を持つ事は実に素晴らしい。喧嘩なんてするもんじゃない。
けれども、どうしても戦わなきゃいけない時だってある。
そうでなければ守れないものや得られないものが必ずあるからじゃ。
お前さんは戦わなきゃいけない。他の誰でもないお前さん自身のために」
僕には無理だよ、無理に決まってる

「心配せんでいいジミー。
勇者ポルンガがつけていた勇気の守りがきっとお前さんを守ってくれる。
喧嘩に勝った負けたなんて問題じゃない。大切なのはお前さんに勇気があるかどうかじゃ。
お前さんの勇気をみんなに見せてやればいい」
できないよ、僕は弱虫ジミーだよ?

「お前さんは確かに今はまだ弱虫ジミーのままかもしれん。
けれど、この勇気の守りをいつもポケットに入れておけばだんだんと勇気が沸いてくる。
その胸が勇気で一杯になったらお前さんはもう弱虫ジミーじゃない。
あの勇者ポルンガのような立派な戦士になっとるだろう」
それは一体いつ?

「それはお前さん次第じゃ。
お前さんが欲しいと思えば思うだけ、勇気の守りはお前さんに勇気をくれる。
それじゃあな、ジミー。ワシはそろそろ家に帰る。
その勇気の守りがもう必要なくなったら、ちゃんとワシに返しておくれ。
この世界にはお前さん以外にも勇気を必要としておる人がたくさんいるんじゃ」
じいさんはゆっくりゆっくり家に帰っていった

ジミーは勇気の守りをギュッと握り締めた
心のどこかがカッと熱くなった
自分はもう弱虫ジミーなんかじゃないってそんな気がした


自由詩 弱虫ジミーの話 Copyright ナイチンゲール 2006-02-10 11:20:56
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