赤い墓標
TAT































































サタニック・ブン・ブン・ヘッド

『おれはおめぇにいてほしいんだよ、レニー。なぁ、もしおめえが一人になったら、コヨーテと間違えられて撃ち殺されてしまうぞ。だからな、おめえはおれといっしょにいろ』





ドッグ・ウェイ

『おれたちみてえに、農場で働くやつらは、この世の中でいちばんさびしい男たちさ。家族もねえ。住む土地もねえ。農場へ来て働いちゃ、小金をかせいで町へ行き、きれいさっぱり使ってしまう。それが終わると、また別の農場へ行って、汗を流しながら働く渡り者だ。先にはなんの望みもねえ』






ダニー・ゴー

『おれたち二人は、そんなじゃねえ。先には望みがある。たがいのことを気にかけあう話し相手が、ちゃんとある。ほかに行くところもねえからと、酒場へはいって金をむだ使いすることもいらねえ。ほかのやつらは、ブタバコにでもぶちこまれりゃ、もうそれっきりだ。だれがかまおうと、だめになっちまう。だけど、おれたちはそんなじゃねえ』








ブラック・タンバリン

『「金をかせぐまでは、ここでがまんしなきゃなんねえ。しょうがねえんだ、レニー。なるたけ早く、ここから出て行こう。おれだって気持ちはおめえと同じだ。ここは気にいらねえよ」ジョージはテーブルに戻って、ひとり遊びのトランプの手を新しく並べはじめた。「そうとも。ここは気にいらねえ。二十五セントもありゃ、飛び出して行きてえぐれえだ。二ドルか三ドル手に入ったら、ここを出てアメリカ川をさかのぼり、砂金をとろう。あそこじゃ、たぶん日に二ドルぐれえはかせげるだろうし、ひとヤマ当てることもできるかもしれねえ」』





ドロップ

『カールソンは自分の寝床の下からカバンを引きずり出した。まだ壁に顔を向けたままのキャンディ老人には目もくれない。カバンの中をさがして、小さな掃除棒と油の缶をみつけた。ベッドの上にそれを置いてから、拳銃を取り出して、弾倉をはずし、薬室にこめてあった薬包を抜き取る。それから、小さな掃除棒で銃身の掃除を始めた。薬包抜き取り装置がパチンと鳴ったとき、キャンディは寝返りをうってチラリと銃を見たが、またすぐ壁のほうを向いてしまった』






水色の水

『「ええと、そこは十エーカー」ジョージは話しだした。「小さな風車がある。そこに小さな家がたち、ニワトリ小屋もある。炊事場も果樹園もある。サクランボ、リンゴ、モモ、アンズ、クルミ、それにイチゴも少しはとれる。ムラサキウマゴヤシの牧草地が広がって、水がゆたかにそれをうるおす。ブタ小屋もあれば--」「ウサギもいる、ジョージ」「いまはまだ、ウサギを入れるところはねえ。だが、二つ三つのウサギ小屋はすぐおれが作ってやるから、おめえはムラサキウマゴヤシでウサギを飼える」「そうだとも、飼える」レニーは声を出した。「きっとそのとおりに、飼えるんだ」ジョージの手がトランプをめくるのをやめた。声がいっそう熱をおびる。「それにおれたち、ブタも二、三頭飼える。じいさんが持ってたみてえな燻製場を建てて、ブタを殺すとベーコンやハムを燻製で作ったり、ソーセージやなんかもみんな作れる。サケが川をさかのぼって来ると、何百匹もとって、塩づけにしたり燻製にしたりできる。朝めしに食うんだ。サケの燻製くれえうめえものはねえ。くだもののとれる季節になると、缶詰にして-ーそれにトマト、これは缶詰にしやすい。日曜日ごとに、ニワトリかウサギをつぶそう。たぶん、メウシかヤギを一頭手に入れ、しぼった乳のクリームがものすごく分厚いんで、ナイフで切りスプーンで取り出さなきゃならねえ」』







blue nylon shirts

『そう。いろんな野菜を畑に作る。ウイスキーがすこしほしけりゃ、タマゴやミルクなんかをいくらか売ればいい。おれたち、そこに住みつく。その土地のものになる。そこらじゅうを渡り歩いて、日本人コックが作ったものを食うなんてことは、もうねえ。ねえんだとも。おれたち、自分のものとなった土地に住みついて、飯場なんかに寝やしねえ』









バードメン

『うん。小さな家に住み、自分たちだけの部屋を持つ。小さな丸い鉄のストーブ。冬になるとそれに火を燃やしつづける。土地はあまり広くねえから、あくせく働かなくてもいい。まあ、日に六時間か七時間だろう。一日に十一時間も大麦を運ばなくたっていいんだ。作物の植え付けをやったら、そう、取り入れもおれたちの手でやる。植え付けたものからどれだけ取れるか、わかるんだ』






武蔵野エレジー

『それに、これは自分の土地だから、だれもおれたちを追い出せねえ。いやなやつがいたら、〈出て行きやがれ〉と言やあ、それでもう、そいつは追い出せるんだ。友だちがやって来たら、そう、余分の寝床を作っておいて、〈まあ一晩泊まってゆけや〉と言やあ、どうだい、そいつは泊まってゆく。セッター種の猟犬を一匹と、まだらのネコを一つがい飼うが、おめえ、ネコにウサギの子をとられねえように見張ってるんだぞ』






ピストル・ディスコ

『町に見せ物やサーカスが来たり、野球やフットボールの試合があったりしたら』

『おれたちゃ、そいつを見に行くんだ』

『行っていいか、なんてだれにもきかねえ。〈見に行こう〉と言って、行くだけさ。ウシの乳をしぼり、ニワトリにエサをやっておいて、町へ見に行くんだ』







キラー・ビーチ

『何百人という男たちが、背中には毛布の包みを背負い、頭にはそれと同じくだらねえ考えを抱いて、農場から農場へと渡り歩くのを、おれは見てきたがね。何百人という男たちがだよ。この連中はやって来て働いちゃ、やめて次へ移って行く。その一人一人が、みんな頭の中に小さな土地を持っている。でもだれ一人、その土地をほんとうに手に入れた者はいねえ。まるで天国みてえなもんだ。みんなが小さな土地をほしがっている。おれはここで本をたくさん読むがね。ほんとうに天国へ行った者はいねえし、土地を手に入れる者もねえんだよ。土地はただ頭の中にあるだけだ。みんな、いつでも土地のことを話しているが、ただ頭の中にあるだけなんだな』








赤毛のケリー

『あたし、サリーナスに住んでいたの。子どものころ、引っ越して来たのよ。あるとき、旅まわりの劇団がやって来てね、あたしは役者の一人と知り合いになった。劇団といっしょに来ていい、ってその人は言ってくれたの。でも、かあさんが許さなかった。あたしがまだ十五歳だから、って言うのね。だけど、その人は来ていいと言ったのよ。行ってりゃ、こんな暮らしはしてないわ。ほんとよ』








カルチャー

『また、別のときにはね、映画の仕事をしてる人に会ったの。その人といっしょに、リヴァーサイド・ダンスパレスへ行ったわ。その人、あたしを映画に出そうって言うのよ。生まれつきの才能があるんですって。ハリウッドに帰ったらすぐ手紙をよこすと言った』

『映画に出て、すてきな着物を着ることもできたーーあの人たちが着るようなすてきな着物をみんなね。ああいう大きなホテルの中にすわって、あたしの写真をとらせることだって。試写会のときにはあたしも行って、ラジオで話すんだけど、映画に出ているから、お金なんか一セントも払わなくていい。あの人たちが着るようなすてきな着物をみんな着るの。だって、あたしには生まれつきの才能がある、ってその人に言われたんだもの』










スモーキン・ビリー

『笑わせないでよ。あたし、おまえたちのような者を見すぎるほど見てるの。おまえたちはね、それこそ二十五セントでも手にはいろうものなら、それで安物ウイスキーの二杯も飲んで、グラスの底までなめるじゃないか。おまえたちのことは知ってるよ』












シトロエンの孤独

『ーー初めの初めからわかってたんだよ。けっしてできないとわかってたような気がする。あいつがあんまりその話を聞きたがるもんだから、できるような気におれもなっていたんだ』

『ひと月働いて五十ドルかせいだら、おれはどこか女のいるけちな家で夜どおしすごすよ。それか、店じまいの時間まで玉突き屋にいるだろう。そうして帰って来ると、またひと月働いて、もう五十ドルかせぐさ』








デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ

『レニーは頭をまわして、淵の向こうの、暗くなってゆくギャビラン山脈の斜面を見上げた。「おれたちは小さな土地を持つ」とジョージは話しはじめる。わきポケットに手を突っこんで、カールソンのルーガー拳銃を取り出した。安全装置をはずし、銃を持った手をレニーの後ろの地面に置く。レニーの後頭部、背骨と頭骨がつながるあたりを見つめる』





マリアと犬の夜

『スリムがジョージのひじをグイと引いた。「さあ、行こう、ジョージ。おまえと二人で一杯飲みに行こう」ジョージは助け起こされるままに身をまかせた。「ああ、飲もう」スリムが言う。「飲まずにおれんだろう、ジョージ。きっと飲まずにはおれんだろうよ。さあ、おれといっしょに行こう」スリムはジョージの腕をとって小道にはいり、州道のほうへ上がって行った。カーリーとカールソンは二人の後ろ姿を見送った。カールソンが言う。「おい、あの二人、いったいなにを気にしてるんだろうな?」』















































神様に貸してる物を






























































































































返してもらいにチバは















































































チバはおれらを代表して































































神様(あいつ)に貸したまんまの物を






















取り返すために空までチバは


















































































ちょっと出掛けてった




































































































※引用文献 『』内
スタインベック 作 大浦暁生 訳
「ハツカネズミと人間」より引用





自由詩 赤い墓標 Copyright TAT 2024-01-27 14:24:18
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