よみがえる
ただのみきや

ぬれた星を見上げ
渇きをいやす
眼球は
キリギリスを歌う
風見の舌と睦みながら
吐血の祈り
内視鏡では
さかしまに蜷局を巻く
死は累々と
あどけなく惨めに
染みはそのまま
母の着物の柄となる


死と詩は互いに置換される
きみは詩に痴漢する
だから孕まない
きみは神殿の切石を盗んで積む
だから孕めない
きみの理屈で自然石は積めない
理屈は限界をもの語る
詐と史はねじれたラジオ
暗闇で月をすする
肌と肌がこすれて発火した
あの瞬間なにを見た
酢と背は盲人の花札
祖と鼠は真水に解く
苦いほど甘い

死者の射精
わしづかみにされた
土饅頭のにおい


時代が堕胎した
偶像から取り外された顔
印象は摩耗し素体に返る
埋葬された秘密
発見されない数多の墓
追うように追われるように
足にからまる地吹雪
歌うように咽ぶように
這いまわる天使
白い亡者の群れ
薬と散弾の見分けもつかず
妄想の楽園を求め
真似事の解剖学に浸るもの
自己は肥大し
牧場の家畜はやせ細る
与えることで奪う
それでないと維持できない
脆弱な骨格が老いた雛鳥の声で
憐憫の甘露に喘いでいる


わたしたちに箱舟はない
最初から
ゆり籠だったものが棺だった
それが世界であり楽園だった
見失うな己の棺を
固い外装とやわらかい内装の
貝のように
かすかに開いたすき間から
つめたい沈黙の触手をのばし
探れ探れ
なにかに触れて触れられて
泣くように笑う
なまぬるい血肉
死の産着をふるわせて
孤独と誤読に酔いしれながら


棘のある跳ね脚が
蟻の巣穴でひくりと動く
自らの腹を蹴破って生まれるために
地の底で眼球は天を湛えていた
色彩よ造形よ
響きよ音色よ
もの言わぬ黒の群れから匂い立て
蝶は羽化し
風とたわむれ
蜘蛛の巣を飾る
キリギリスに齧られた晩夏の午後



                       (2024年1月27日)












自由詩 よみがえる Copyright ただのみきや 2024-01-27 11:55:31
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