甘く無残な鼓動
ホロウ・シカエルボク


脳裏で吹き荒ぶ嵐を、飲み干して制圧したい、闇雲に振り回した拳は、触れてはならないものだけを破壊した、影の中に隠れ、目論む感情のリカバリー、人差し指の傷を舐める、舌にこびりついた血は堪らなく苦かった、ガラスの破片、いっそ肉体に混入して、体組織の一部になればいい、焼却場の炉の中で輝くだろう、闘いの概念、結局は精神の在り方さ、指揮統制、すべては自分の為だけに、禁止区域を抉じ開けて進軍を続けろ、目を逸らしたいものこそが本質だ、肉体を持つ以上綺麗なものではいられない、悲鳴が聞こえる、或いは、昂ぶりの果ての絶叫かもしれない、どちらにせよなにも無いよりはマシというものだ、産まれることにも生きることにも、本来意味などたいして無いものだ、闘いを求める意志だけが、そこに意味を見出していく、俺の精神はいつだって闘いの中に在る、折れそうな牙をひけらかしてる暢気な連中とは違うのさ、傷を穿て、溢れ出した血を啜れ、言葉は犠牲者の記録だ、一度飲み込んですっかり忘れてしまえ、忘却の中に在る奇形化した記憶、その歪み方が、その歪み方がどうしようもなく愛おしいことさえある、能面みたいなまともさなんか御免だ、俺は自分の血を撒き散らす、そこから漂う圧倒的な生と後悔の臭いの中で生きている、文脈は俺を解体する、化学物質によって保存され、見世物にされた死体に憬れる、複雑な血管のネイキッド、どうしようもなく昂る気持ちがお前に理解出来るかい、叫びに思えたものは渦巻く風だった、四方八方、身を隠す場所もなく、弄られながら俺はいくつかの文節を叫ぶ、聞こえない詩、聞こえない言葉、そこには無限の意味があった、そんな種類の無意味が俺を生かし続けてきた、空っぽの空間では様々なものの反響がよく聞こえる、小さなスコップでそれを埋め尽くそうとしているのさ、一生を費やしても達成出来ない、そんな遊びだからこそ夢中になれる、それは固定されたものではない、すべては変化する、アメーバのように、スライムのようにね、確信など幻想に過ぎない、変化の過程と速度への執着、それが人生の正体さ、正気は狂気、正常なんてただの真直ぐな線だ、数値化出来ることになんてどんな興味もない、飲み込んだ嵐は内臓の形を変える、心拍が跳ね上がり、なのに血液は冷えて行く、最高の混乱、バッド・インフルエンス、でも満更じゃない、そこには常に、次を模索する試みがある、身体が音を上げる時ほど、精神は先に行きたがるものさ、そら、限界を超えて見せろ、身体が軋めば軋むほど新しい言葉が落ちてくる、無理は効くんだよ、そしていつからか、それは無理ですらなくなる、そしてさらに深みへとのめり込む羽目になるのさ、理解した瞬間に腹は括った、俺が欲しいのは栄光なんかじゃない、社会的な認知でもない、そんなものどうでもいい、俺は書きたいことを書き続けた、死ぬまで、死ぬまで、それをやり続けた、俺が残したいものはそれだけさ、人生、運命、宿命、使命、すべてを疑え、すべてに抗え、生身の肉体が感じるもの以外はすべて取るに足らないものだ、玉砕覚悟じゃない、玉砕するのさ、彩色されて浮き上がった血管はそのまま舞い上がり竜になる、バリバリと、バリバリとそいつが筋肉や骨から剥がれてゆくその時のサウンドは俺を常世へと導くだろう、俺は俺の世界の神だ、誰に文句を言う筋合いがある?余所見をしている暇はない、空っぽの空間はすべてを飲み込んでしまう、思考する速度だけが一瞬そいつを超えることが出来る、指先は自動書記のように動き続けて好き勝手綴り始める、俺はただ手を添えているだけさ、あとはディスプレイに打ち込まれていく文字だけが語り続ける、俺はそれを知らない、俺はそれを知らない、知ろうとも思わない、そんなことは重要じゃない、無意識に引き摺り出されたものだけが本質を語ることが出来る、そしてそのほとんどは気付かれることもなく過去に処理されていく、その過程がそこにあった、それこそが重要なんだ、たとえ後に記憶の中で奇形化しようと、その過程が細胞に刻まれることこそが重要なんだ、自分一人の為以外に語られる詩など無い、傷を穿て、溢れ出した血を啜れ、だらしなく口元を染めながら、どんな理も要らない世界に足を踏み入れるんだ、大丈夫だ、俺が生きている限り、本当に書きたいものは待っていてくれる、俺は叫ぶ、それは悲鳴のようでもあり、絶叫のようでもある、衝動のすべては死の瞬間まで理解出来ない、俺は自分の血を撒き散らす、ギリギリ生きていられる段階まで血が冷えたことってあるかい、俺はそれがどういうものだか知っている、血からは逃れられない、血だけは欺けない、血を超えることは出来ない、血の概念を超えることは出来るだろうか、この先俺は、そんな景色を見ることがあるだろうか、いつか馬鹿笑いが聞こえたら拍手してくれ、満更じゃない、いつだって満更じゃない、知らない間に唇が切れていた、俺はその血を舐める、いつかは、そうさ、お前に止めを刺してやれる時がくるかもしれないぜ



自由詩 甘く無残な鼓動 Copyright ホロウ・シカエルボク 2024-01-06 22:17:35
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