気圧
由比良 倖


美しいような、やましいような、奇妙に研がれた気分です。

この本?、この本には詩の息吹がかけられています。ま(だ)新しい本です。
この本は、特別な薬効で私の目蓋の裏にあります。

生きているだけで、小さな一粒なのです(宇宙は小さな一粒、そしてそれはエネルギーとして表され)、エネルギーとは、つまり時間ですね。私の目蓋の呼吸。感情の笑み。
感情の呼吸。

生きてるだけの一粒に、一粒を接ぎ足していきます。

夕暮れにびっしょりになって、私は西瓜のように満ちている。

ひとつめの、今日という日の甘い一日に添える、ひとつの余剰としてコントラバスを聴いて、万全な順路の先に、(自分がひとつの機械になってしまったような恍惚のための歌があってもいいと思うんだ)、真新しいサラダと、私は完璧さから漏れ出るインクのような芽を食べたい。



ああやってる、こうやってる、どうやってる(?)人たち。

風が吹くからにはたましいは低気圧なんでしょうか? 壁に身体を寄せると、風はやみ、音楽は私に滲みわたらない。私は反応したくない。冬が来るから雪化粧をして。黙って、ひとりで、いたい。(ふわふわ、すたすた。)黙って、ひとりで、いるから。ひとりきりの宇宙、醜いけれど、こんなに見せているのに。

山ではカラスが鳴いています。干した芋のような長閑な声で。
(ふわふわなもの。窮屈な感情への恋しさ。)




もっと遠くへ……涙よりも遠くへ。
私は私ひとりでいきます。
月の裏側で落ちるコインの音、
それはどこまでも、どこまでも光をたなびかせて落ちて、
苛立ちのような白っぽい、粉の地面に着地する。

夢、
なら、一番の私の理想の夢は、
感情に、衒いのない、選びようのないもの、幸せな
私はここを離れ、孤島に霊を住まわせます。
孤島に遠さを住まわせて…



骨を、透明になるまで砕いて
細い清流に流してください
骨が、痒くてたまらないのです……


自由詩 気圧 Copyright 由比良 倖 2023-10-17 20:28:00
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