巡礼
由比良 倖

心には川があり、
その汀に宇宙はある、
そこでは死んだ人たちも生きていて、
私は彼らがみんな大好きで、彼らは、
カプセルみたいな私の心を、
ぶち割ってくれる、
私の心は水になる。

泣いてもいいし、泣かなくてもいい、と彼らは笑って言い、そこでは、
水の心の揺るぎない温度が、
私を守ってくれる、移り気な心に、
温もりを感じて、私はゆったりと、
泣くことだって出来る。強がりを言って、
笑える心だって、……つまり私は温かい生きものなのだから。

静けさと暗がりこそが、私の根拠だ、
死は、私には始まりに過ぎない。
死は甘くて、
なめらかな体温に調和した味がして、
どんな人の足もとにでも簡単に跪くことの出来る、
永遠の日曜日のようで。

暗がりこそが、私の根拠だ。
拡がった瞳孔の内側には光が満ちている。

寝起きの悪さや、あれやこれやの気障りな流転、
……
でも、その底の方では声がしていて、
ねえ、さて、次はどの世紀に行こうか、なんて、
死んだ彼らのひそやかな談笑が、
私の耳には、いつだって聞こえる。


自由詩 巡礼 Copyright 由比良 倖 2023-10-15 10:29:41
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