月光頌(らいこう29)
れつら

高校に入って部活ばかりの日を過ごした僕が
はやく帰ってきた土曜の夕方
テレビを観ていると父が隣に座った
あたらしいガンダムが始まった

父はしずかな男だった
と言われたそうな男だった
この30分間
今さら月に照らされてー

トミノの声はついレファレンスを覗き込みたくなる
父の声は僕の行為のあとをついてきて
父らしい父の行為して
僕は覗き込む
覗きってなにを覗くか込むかわからないが
それが参照という行為だロォ!と
行為という単語は別に卑猥でもなんでもないのに
家族の前ではテレビを変えて
照らし出されるのを避けて
夜中になってもまだデスクライトを手で押した
夜だったので振動し携帯電話は(僕のものではない)
別の理由もあったくさい


僕がいちばん彼をうまく扱えるのに
私を抱く彼の妻のとなりでしずかに腹を立てる若き日の父
それはエコーだよ
妻の腹に手を当てる医師の声が僕を通り過ぎる日
ひとりで酒を飲むのは
師を欠いたからだ
誰にも襲われないまま
なんやかやと生活に駆り出された中年兵の
日記を今こそ読むな父よ
それ黒歴史だから
以降は黙って


実家に帰ると弟から
水星の魔女は観たかと聞かれる
黙ればふたつ
進んでもまたふたつ
歴史は続いていく


自由詩 月光頌(らいこう29) Copyright れつら 2023-08-02 22:58:52
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