anger
れつら

殺したい
殺したい
殺したいと右手が唸り
思い切り壁を殴りつける
ふりをして ほんのあと1センチで止める
この細胞の残酷さ
眼差しはボクサー
棒切れのような身体からあふれ出す狂気
頭の中が真っ白になったとき
全てがこときれる とりかえしのつかないことになる
わかってる


気がつけば随分と傷ついていたようで
見ず知らずのだれかの些細な行動に
ごくごくありふれたことに
途方にくれるようになったりして
めくれる瘡蓋から溢れ出す血液
情熱情熱情熱情熱情熱と呪文のように唱えて
正当化する自らの狂気
Coma-chiが言ってたな
ほっとけば傷は癒える。
それは言えてる。けれど何処へ行ける?
癒えるまでの間イカれたままの維管束
動脈にばかり輸送されるあかいあかいあかい
破壊衝動
破壊でしか見出せない将来
こんなんじゃ
愛せない


アーティストは愛を語る存在ではなく
愛そのものでなくてはならない
片腹痛いよ、と吐き捨てて
本当に痛いのは傷口ではなくその痛みを許せない自分だと
こんな要領のよくない狭量な自分だと
自分だと
自分に言い聞かせて

アンガー

愛について語ろうとするたび
愛について語る言葉をなにひとつ持たない自分と出会う
ムカつく
死ねばいい
殺す
愛について言葉を費やせば費やすほど
愛から遠ざかっていくようで
鈍器をよこせ
ありったけの武器をよこせ
本当に悪いのは自分だ
愛せない自分だ
なんて
ほんとうはちっとも思えない


アンガー


どんなにイキったところで俺は俺だ
西武新宿線、終電に乗り込む
降りる客を待たず車内に身体を滑り込ませ
ひとつだけ空いた席に腰を落とす
凶器凶器凶器凶器
ひとが一人増えるたびに圧力が倍加していく
こんなにもぺしゃんこになりそうな身体を必死で支えるのは
殺意殺意殺意殺意殺意かもしれない
暑い暑い車内
まだ夏を知らない
かたい身体がそれでもすこしでも自分の空間を求めて身体を滑り込ませて
この骨ばった身体で身体で身体で身じろぎもできずにただただ耐えている
声も挙げず
ぢっ

目を瞑って



i-Podから
音楽だけが優しく




わたしは
音楽になりたい
あらゆるひとを罵りながら駆け抜ける
音楽になりたい
音符を並べたところで追い付けないほどの振動でありたい
風よりももっと速く
人々を揺らすものでありたい
あくまで暴力的に
あらゆるひとを殴りつけてやまず
それでも恨まれもせず
怒られもせず
ゆっくりと光を受けて磨耗して消滅するコンパクトディスク
ある日ふとした瞬間に踏んづけられて割れるレコード
ただ適当に消費され
ツマミをまわせば朗々と語り
逆に絞れば声をひそめて
ただ 求められたときに鳴る音楽に
その暴力に
求められた暴力にわたしはなりたい
そして叫びたい
殺したい殺したい殺したい殺したい殺したいではなく
喉を枯らすのではなく全身を磨耗させて
愛したい愛したい愛したい愛したい
発情期の猫のようなくだらない獰猛さで
街中のひとを殴りながら
笑われていたい


アンガー



5月5日
晴れ上がった空
欲望





自由詩 anger Copyright れつら 2023-04-23 09:06:14
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