カーニバル
山犬切

夏の盛りの訪れに木製の扉が開かれ、庭は一面青い草や花々でうっそうとする むせかえるような夏の草の匂いがして女は如雨露でマリーゴールドや向日葵に水をやっている 軋轢都市の水位は上がり、樹で蜜を吸うように一生懸命鳴いている蝉たちが高まった水位に溺れている 水に浸かった都市を半分以上水でできている僕らは歩く
リビングのテーブルの上のコップ 夏に飲む冷水は爆発している

家で冷たいそばを食べ終えプレステ2の昔の格闘ゲームを俯せに寝転びながら漫然とやっている齋藤さんは僕と恋仲にある 僕は唐突に彼女を外へ連れ出したくなったので 「今日――祭りがやっているよ」と俯せの彼女に声をかけた 斎藤さんは顔だけをこちら側にくるりと向けて「じゃあ、行く」と普通に答えた
夜の神社に着くと、おぼろげに薄もやがかかったようで大正ロマンのような景色が広がっていた フランクフルト、りんご飴、甘酒、金魚すくい、焼きそば、お面屋、射的、たい焼き、チョコバナナ、わたあめ、焼きとうもろこしなどを売り提供する店舗が所せましと並んでいてその景色は毎年のお馴染みではあるものの見ることを飽きさせなかった 神社はカーニバルのような様相を呈していた 少し神社を歩いていくと、全体を貫く石畳の道の真ん中より少し手前にお面屋があった お面屋で斎藤さんは目や鼻が赤く輪郭を青い線で縁取られている狐のお面を買った そしてそれを被って僕にお道化てみせた
その後僕たちは黄色い屋根の下のチョコバナナを買って食べた チョコバナナを食べている少しそばかすのついた華奢な体つきの斎藤さんを見ていたら急に僕は焦らされたように下半身がむずむずした心地になり、彼女が手に持っていた狐のお面を被らせて、手首を強くつかんで人目を避けるように誰もおらずひっそりとした境内の木陰まで来た そこまで辿り着くと、斉藤さんはこれから僕たちが何をするのかがはっきりとわかっていて、身体から甘い匂いがただよってきていた 僕は齋藤さんに樹の太い幹に両手をつかせ、彼女の浴衣を裾から捲りあげ、夏のぬるい夜気に白く映える肌をした尻の間に自らの勃起ペニスをねじ込んだ するともう止まらない 立った状態での後背位で僕は激しく狐のお面を被った齋藤さんを突いた マシンガンのように斎藤さんの奥を刺激した 齋藤さんはお面の下で顔を歪めて甘くあえいだ息を小刻みについている なおも一心に後ろから突き続け俺はとうとう射精した… 狐のお面を被った齋藤さんはがっくりと膝から崩れ落ちるように地面にへたりこんでしまい、お面のすき間から満足げでありつつもなお誘うような目つきが見えた 僕が肩で息をしている彼女のお面をおもむろに剥ぐと、そこにはあるべきはずの目、唇、鼻、滑らかな素肌はなく、暗い宇宙の星雲のようなもやがちょうど顔と同じくらいの大きさで首の上に乗っかっていた 僕が腰を抜かしていると、暗いもやを上に載せた斉藤さんの細長い白い首がしゅるるるると天へ伸びていき僕は気を失ってしまった

自部屋のデジタル時計は8/31という日付を表示している 手つかずの夏休みの課題が机の上に山積していてちっともさっぱりとした感じがない ひきずっている 煙草を吸い、外に出ると夏の終わりの冷たい小雨が降っていて僕は思った どうして僕の心はいつもほとんど空のシャンプーのボトルみたいなのだろう? どうして心はいつもかゆいのだろう?と


自由詩 カーニバル Copyright 山犬切 2022-12-01 16:00:31
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