しばづけのおにぎり
山犬切

校舎の屋上から青空の広がる町の景色 縁の手すりに腕を置いて俯せて俺はふるさとの町を見てる
2限目の授業を体調が悪いと嘘をついて保健室に行くフリをしてぼんやり
心の中は砂嵐。 枕についた涎のあとみたいな濁った脳内 濁った日常 魚眼レンズで見てるようなゆがんだ視界
太陽が照らす光に恵まれずアフリカの道で物乞いをする痩せた少年のような飢餓と孤独で虚ろになったこころ
空は他人事のように、あるいは青く美しい人の目のように澄んでいる
教室の俺の隣の席には竹川さんという女子が座っているのだけど俺は彼女の心を知らない 彼女のスカートの中も俺は知らない
俺には母親がいない とっくに死んでる
俺は唐突におにぎりが食べたくなった
2年前ぐらいに母さんがよく作ってくれたしばづけのおにぎり…アレが無性に恋しくなった
チャイムが鳴るとそれは鳴り響いて それが響く間に焼きそばパンを齧った
最近暇つぶしで見てる日常系のアニメを見ていたら青い髪をした美少女が紫色の髪をした美少女と日常を和気あいあいと過ごすシーンがあったけど そんな楽しい日常からも俺は疎外されている
俺の日常やリアルはくだらないし意味がないのかもしれない
もう母さんの作ったおにぎりもなければアニメに出てくるような楽しくまぶしい青春もない
けれど俺だってこの日常を唄いたい
3,4、5時限目を通り過ぎて下校時刻がやってくると、雨が降らない間にと帰り道を急ぐ
「H×H」の載ってないいつものジャンプを制服の小脇に挟んで長い踏切を待って歩んでいくと
電柱でカラスが悪魔のように死んでいて
赤い血がしたたりおちていて
サーッと夕方に風が吹いて
芒がふるえて


自由詩 しばづけのおにぎり Copyright 山犬切 2022-11-06 09:13:01
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