腰の曲がったおばあさん
ひだかたけし

腰の曲がったおばあさんは
下から世界を見上げます
澄んだ眼で街行く人を見つめます
そしてひとりゆっくり歩を進めます
生きる静かな執念です

腰の曲がったおばあさんは
昼間ヘルパーさんに家事を任せ
部屋でゆっくり読書します
時折頁の上端を折りながら
数冊の詩集を代わる代わる読み進めます
輝く魂の営みです

腰の曲がったおばあさんは
夜はキャンバスに向かい絵を描きます
身を起こしスツールに座りながら
直観がイメージを捉える瞬間に絵筆を走らせます
内なる宇宙の遊戯です

腰の曲がったおばあさんは
たまに顔を見せる小学生の孫を迎え
やっぱり下から見上げます
幼い日々の自分を観るように
その生き生きとした表情に笑いかけ
未知なる人生を祝福します

腰の曲がったおばあさんは
今日も人生の一日を過ごします

遥かな過去の光景を辿りながら
時に襲う邪悪な恐怖を凝視しながら
近づく死の響きに耳を澄ませながら
過ぎる日々の生々しさを
醒めた意識に掴みます

腰の曲がったおばあさんは
今日も世界を見上げます
晴れの日も曇りの日も
澄んだ眼差しで受け容れます

腰の曲がったおばあさんは
腰の曲がったおばあさんは








自由詩 腰の曲がったおばあさん Copyright ひだかたけし 2022-09-08 18:40:00
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