バナナ
妻咲邦香

バナナが
バナナでなくて
何だろう

何だろう

黄色い顔して
艶やかで
人を
人間を
斜めに見ている

少し小馬鹿にしたように
鼻でふふんと笑いながら
愛嬌など微塵も見せないで
横目でちらちら
眺めている

舐めるように
人間を
人間のことを
眺めている

私を
私のことを
ながめている

ああ覚えてる
温もりが足りなくて
泣いたこと
愛情が多過ぎて
泣いたこと

ああ
あなたはバナナ
食べられるとも知らないで
美味しいことも知らないで
スマートなのをいいことに
名前の通りの風貌で
「私はバナナ」と言っている

バナナでなくて
何だというのか

バナナだろう
紛れもなく
バナナであろう

いや
バナナであって欲しいと
そう願わずにはいられないほど
あなたはバナナ
バナナ
なのだ

それ以外は考えられず
それ以外は許されない
そんな名前の
あなたは

ああ覚えてる
共に生きたこと
共に歩んだこと
覚えているよ

長い睫毛と
肩を鳴らす癖と
朝の窓辺に漂う匂いと
私の
バナナ


自由詩 バナナ Copyright 妻咲邦香 2022-09-07 08:34:16
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