料理で俳句⑳アイスクリーム
SDGs

本日のお品書き~アイスクリーム~


  列車旅窓を売り歩く声「アイスクリン」


 遥か昔の子どもの頃、夏休みで故郷への列車旅で出会った「アイスクリーム」は衝撃だった。濃厚だった。町で買い食いするアイスクリームはいかに水っぽいかも知った。食べたのはたしか列車が「三田尻」(今の防府駅)の停車時。「アイスクリン、アイスクリン、アイスクリン・・・」と列車の窓を売り歩く声がした。

 値段は五十円だったか、三十円だったか。駄菓子屋では五円でアイスキャンデー、十円でアイスクリームくらいだったから、かなり高額な商品だった。いまでこそ「アイスクリームと言えるのはアイスクリームだけで」、脂肪分がアイスクリーム基準に満たないものは「アイスミルク」と「ラクトアイス」に分類されるのは知っているが、それはそのアイスクリームと言える「本物」のアイスクリームだったのかもしれない。少しずつ豊かになっていく戦後が、旅する人の財布をマーケティングした結果の味でもあったのだ。

 そしてなぜそんなものが登場してしまったのか、その理由が全くわからないのが「冷凍みかん」。たしか赤いネットに三、四個入っていたような記憶がある。その頃の冬のおやつといえばみかんだったから、なにも夏にもまた出すことないじゃないか。もう、うんざり。というのが私の感想だった。

 それでも、買い求める人は多かったのだろう、何年間かは目にした。一度もらって食べようとしたが、皮を剥こうとすれば実が崩れ、つかんだ指が果肉に突っ込み、果汁が足もとに滴るばかり。冷たいみかんの置きどころもなく、つかんだまま途方に暮れた。ついに一片も口にできず、手を汚すだけの代物だった。食べるタイミングが悪かったのか、それとも冷凍ミカン独特の食べ方というものがあったのだろうか。素焼の茶瓶など鉄道の旅から消えてほしくなかったものはたくさんあるが、これだけは消えてくれてよかった。



俳句 料理で俳句⑳アイスクリーム Copyright SDGs 2021-06-06 09:05:12
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