外回りと食堂
番田 

僕は昔、営業マンだった頃、湾岸道路の工業地帯の近くの食堂に時々行っていた。そこは、10メートルほどはあっただろうか…道が広いので、多くの車が暗黙の了解で停めているような場所にある食堂だった。僕は真昼の空の下で、ドアを開けて、停められていた車の群れの中を、そこに向かって歩いていった。カラカラと音のする、薄くて安っぽいガラスの戸を開けて、生姜焼きを頼んで、食べていた。そこにいた誰かが、キャベツの切り方で味が変わるというような話を店主に向かってしていたのを、耳にしていた記憶がある。店の外からは手で遮りたくなるほどの明るい日差しが店の中全体に差し込んでいた。


僕は車に戻ると、当時はまだ学生だった友人に電話をかけた。彼は、昼なのにまだ寝ていた。そして、最近どんな事をしているのかといったことをたずねたり、答えたりしていた。車を出すと、特に、注文があるわけでもない取引先の建物の中に入っては、また、いつものようにして、出てきた。そして、中古CD屋に寄ってはまた、営業所に、いつものようにして帰っていったのだった。



散文(批評随筆小説等) 外回りと食堂 Copyright 番田  2021-04-15 00:37:34
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