Baguette / Bagatelle
墨晶

          雑文

 バゲットBaguetteと云う仏蘭西麵麭フランスパンが好きだ。と云って、あまりうるさい定見があるわけではない。わたしが買うのはスーパーマーケットなどで売っている、仏蘭西人であれば、「まるでプラスチックを食べてるようだ」と云いそうな、あのY社の安いバゲットだからだ。
 そのまま喰うとなれば、「よくもこんなパサパサな志の低い食いものがあったものだ。これを作って売ろうと思った会社経営者の顔が見たい、否、見たいものか」と思う。しかし、わたしのことであるから多分思い付きだったと思うが、いつからかこんな喰い方をしている。 

1・二つに折って皿に乗せ、電子レンジで40~50秒加熱する。(濛々と湯気立つブヨブヨの物体に変容する)
2・それを金属製のトング、無ければフォーク2本を使って掴み、表面全体をコンロで炙る。(バチバチと音をたて、粟粒で覆われた様な外観になっていく。音がしなくなったら完成)
 1はふわふわした身を作る工程であり、2は固い噛み応えのある外皮を作る工程である。

 見違えるほど頼もしくなったあのバゲットが皿の上で黙って佇んでいる。ちぎるそばから湯気が立ち昇る。スープに浸して食べても良いが、わたしは大概そのままが好きだ。ワインもチーズも要らない。麵麭だけをストイックに堪能している。

 仏蘭西麵麭と云うものは買ってきて包装に入ったまま放置しているとすぐカビが生える。密閉状態がいけないらしい。水分と菌と菌の餌の塊が仏蘭西麵麭の正体であるようだ。
 これも記憶が定かではないが、海外のレシピ動画を見ていて、イタリアでは、麵麭が厨房の隅に放置されていた。「あれは黴対策なのでは」と思い、そろそろ喰わねば黴を生やしそうなバゲットを輪切りにし、皿の上に並べ放置した処、もう暖かい季節だったと思うが、黴が生えず、ただカチカチに乾燥しただけだった。麵麭の高野豆腐のようなものが出来上がる。それをジップパックで保存する。この乾燥しきったバゲットはジップパックの中で乾燥材もなしに黴が発生しない。
 それでは、その利用法を説明しよう。それを水に漬け十分水を吸わせた後、良くしぼり、ちぎり、サラダに入れる。「なんだそれ」と云われるかもしれないが、パンツァネッラPanzanellaと云う正式名称がある。サラダなのに腹持ちが良い。
 その他、砕いてスープの具にしても良い。すりおろして麵麭粉にしても良い。
 
 


散文(批評随筆小説等) Baguette / Bagatelle Copyright 墨晶 2021-02-27 13:02:46
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