料理で俳句⑦チーズ&クラッカー
SDGs

本日のお品書き~チーズ&クラッカー


 食堂車の白きクロスや夏の旅



本州の西の端の町に住む人にとって、長距離列車は都会の空気を乗せてやってくる「文化」だった。特に食堂車は田舎の町にはない「匂い」が魅力的だった。牛脂の匂いと冷房で冷やされた空気が混じった、少し重く感じる匂い。都会の匂いだ。下関にはそのような匂いのするレストランはない。

時刻表をみれば列車食堂の運営欄には「都ホテル」「帝国ホテル」の名が見える。どちらもどんなホテルなのか当時はもちろん知らない。しかし子どもの想像力を刺激するには充分だった。

食堂車では車掌が帽子を取って、うやうやしく礼をしてから通路を歩いていく。私は大人になった気分になる。私はせいぜい百キロ先の徳山までしか行かない。それでも食堂車にいれば、まだみぬ東京や京都を感じることができた。この線路を辿った先にはなにか大きなものがそこにある。そう感じた。

新幹線の時代になり、食堂車の通路は外縁に出され、車掌にうやうやしく礼をされることもない。二階建て車両の2階に食堂が移ってから眺望はよくなったが、「都ホテル」「帝国ホテル」は運営から手を引き、Jダイナーと名を変えた日本食堂の出す料理に「文化」を感じることはなかった。

私はビールとチーズ&クラッカーを注文し、列車の揺れでクラッカーのくずをぽろぽろとこぼした。車窓も味も殺風景だった。もうすでに、列車は文化をはこぶ役割を終えていたのだ。

今ではその食堂車すら姿を消した。


俳句 料理で俳句⑦チーズ&クラッカー Copyright SDGs 2021-02-18 11:52:44
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