怒りの雨降らし
宮木理人

濡れたベニヤの板を、そいつはダン!ダン!ダン!ダン!叩いている
がっちし握力が込められた握り拳には
見るからに怒りが込められていて、
執拗に、同じ場所をダン!ダン!ダン!ダン!
おれは、怖くて顔を見ることができなかった
昨日のニュースでやっていた天気予報の通り
外では大雨が降っていて
その雨音がいくらか怒りの気配を消してくれているのがせめてもの救いだった
本人の怒りは水に流せないほど滞っていて、先から同じ場所で小刻みに震えているばかり
いつかどこかの亀裂を見つけて、そこから一気に怒りの濁流を噴出してみせそうで
こちらはじっと身を固めながら、関係のないことを思い出したりして、場をやりすごす他なかった
いつか見たことのある決壊したダムの映像は
氾濫した川のなかに取り残された学生グループで
彼らは周囲の注意を聞かずに河原でバーベキューをしていてこうなったらしい
ロープを張った救助隊に助けられていた
そのあとしつこいテレビカメラにぶちきれて、ひどい悪態をついていたのだけれど
見ていたおれはなんだか、どちらにも共感したというか
ただただ、変な気持ちになった
ダン!ダン!ダン!!!!
濡れたベニヤが腐って潰れて
音が少し変わってきている
おれも今、この状況を、見ず知らずの誰かに助けられたら
なりふりかまわず、非道い文句を言ってしまいそう
そうでもしないと、おれが本当にかわいそうになってしまうからだ


自由詩 怒りの雨降らし Copyright 宮木理人 2019-07-04 23:45:07
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