発狂
山人

父は固まりかけた膿を溶かし
排出するために発狂している
脳の中に落とし込まれた不穏な一滴が
とぐろを巻き、痛みをともない
いたたまれなくなると腫れ物ができる
やけに透明で黙り込んだ熱量を持つ液体を
父は胃に落とし込む
体の中に次々と落とし込まれる液体のそれぞれが
燃えながらエンジンを稼働させ、父を発狂させる
そのすさまじい熱量が怨念となってさらに引火し
いくつもの数えきれない父の仔虫が
いたるところに蠢きながら断末魔の声を発している
仔虫は幾千の数となって床を這いまわり
父の怒声から次々と生まれては死亡している
      

真冬、季節は発狂していた
冬という代名詞は失せ、無造作な温暖が徘徊していた
あたかもそれは衝動的な狂いではなく
ひたひたとあらゆる常識の礫が破壊され
あきらかに季節は発情を迎えていた
消沈した寒さは義理堅く時々痛みを加えるが
その底に居座るのは穏やかな発狂であった
       

寝息が不快な音となり
隣人の寝息に目が沙え眠れない夜
黒く闇は脳内に穿孔し
糜爛した傷口から生み出される不安
それらは正常なものから逸脱したやわらかな異常
狂いはしずしずと執り行われ
負の同志をおだやかに増殖させている
       

目指すは美しい発狂ではないのか
古い病院の病棟の鉄のにおいや
メチルアルコールのにおいではないだろう
リノニュームから逃れたところに田園はある
ところどころ雑草が生え、そこに
見たことのない美しい花が発狂しているではないか


自由詩 発狂 Copyright 山人 2019-02-20 06:28:22
notebook Home 戻る  過去 未来