「骨の魚」
桐ヶ谷忍

昨夜の夕飯に頭と骨だけ残して食べた魚が
ゆうゆうと空を泳いでいる
綺麗に身だけ食べられた魚のみが
泳げる資格を与えられるので
私たちは神経質に箸を使う

骨の魚にはもはや天敵もいないから
いつ見ても楽しげな余生を送ってるようだが
七日程で空の上の天に召される

私も、そしてきっと多くの人々も
死んだらあのようになりたいと思うが
人間の身体は複雑すぎて
いまだに火葬場止まりで
第二の人生への扉は開かれない
死んだ人は直接天に向かうのか
謎は解明されないままだが
私たち大人は幼子を叱るとき
あのおさかなさんみたいになれないよ、と
効果てきめんな脅し文句を言う

今日は雨なので
我が子の手をひいて公園に向かう
すでにたくさんの親子が来ている
雨の日は特別に骨の魚が元気だから
間近で鑑賞させてやるのだ

たったひとりでいいから
誰かの血肉になるような
うつくしい生き方をすれば
おまえもあのようにいずれは、と
親たちはこどもに訓戒を垂れる
こどもたちは口をあけたまま空を仰いで
うんうん、と何度も頷く

その白い骨を真白く光らせて
魚は手の届かない空で
優美に身をひるがえした


自由詩 「骨の魚」 Copyright 桐ヶ谷忍 2019-01-23 08:34:55
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