売れない詩人と売れない詩集
こたきひろし

少しは俺にも愛をくれ
少しは俺にも富をくれ
少しは俺にも夢をくれ

だけど本心は
山ほど俺には愛をくれ
巨万の富も俺にくれ
叶えられない夢なんて何もなくなるまで

愛を独り占め
権力も財力も独り占め
夢を舐め尽くすまで

その頃
俺はチェリーボーイだった
俺は奥手で女のこの前ではやたら緊張した

いつも暗い目付きで日本語さえろくに喋らなかったから異性は皆避けていった
チェリー特有の生臭さに加えて著しい清潔感の欠如が乙女たちを遠ざけたに違いなかった

俺はある日思いきってKEIKOさんに訊いてみた
「バストは幾つ?」
以前から俺はKEIKOさんに好意を抱いていた
なのにどうしてそんなイヤらしい質問をしたのか俺自身わからなかった
「二つよ」KEIKOさんは何の躊躇いもみせず答えた
正解だな確かに
だが
そんな事は訊ねるまでもなくわかっていた
俺の質問の答えにはなってない
俺はそれから新たにとんでもない質問をした
「KEIKOさんってvirgin?」
するとKEIKOさんは顔色を変えて同時に俺の頬っぺたを右の平手で叩いた
俺はビックリして直ぐに謝罪した「ごめん」
するとKEIKOさんが言った「子供の癖に生意気言わないで」
でも、俺は子供じゃない KEIKOさんと同い年だった
きっとKEIKOさんは言いたかったんだろう
「チェリーボーイの癖に」って

俺はその時心のなかで叫んでいた
少しは俺にも愛をくれ
少しは俺にも愛をくれ
少しは俺にも愛をくれ

俺はその時未成年だった



自由詩 売れない詩人と売れない詩集 Copyright こたきひろし 2019-01-23 08:22:48
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