山吹のような
オキ




山吹が咲いた
湿った黒土の片隅に
一輪の山吹が咲いた
星が墜ちてきて
そのまま化石になったように
静かに揺るがぬ形を取って
冷たく黄光っている
そのくせこの世のもののように
儚い美しさをたたえて
咲き匂っている
化石が匂うかと
首を傾げたくもなるが
大らかに香っている
しかも手に伝わる感触は
やわらかく優しい
不思議な花だ
山陰の湿り地に
人知れず咲いた
一輪の黄色い花
山吹のような
しかし美しいものとは
すべてこのようなものなのではないのだろうか
人の記憶に残っているだけで
形がこの世に留まりはしないのだ
彼はスマートフォンに収めて帰った
仲間に見せようとしたが
撮ったはずの花は出てこなかった
悔しがっている彼に
花はその夜の夢に登場してきた
「こちらでお会いしましょうね あなたの気持ちは分かりましたから」
と花は語って
それきり姿を現さなかった
あの花はいったい何だったのだろう
実在しない花 仮象の花
山吹のような




自由詩 山吹のような Copyright オキ 2018-04-08 21:47:09
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