とり残された春景
塔野夏子
箱庭は壊れてしまった
誰も皆 遠くへ行ってしまった
子どもである私が 泣いている
子どもである私を 抱きしめられるのは
大人になっているはずの私だけ なのだけれど
(誰も皆 遠くへ行ってしまったのだから)
大人になっているはずの私は
ただ立ち尽くす
子どもである私が 泣いていて
そこから少し離れたところ 敷石のすきまに
小さな菫の花が咲いているのを
大人になっているはずの私はふと気づくのだけれど
「ほら」とそちらを
指させばいいのかもしれないけれど
今はただ
立ち尽くしている
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春のオブジェ