とり残された春景
塔野夏子

箱庭は壊れてしまった

誰も皆 遠くへ行ってしまった

子どもである私が 泣いている

子どもである私を 抱きしめられるのは
大人になっているはずの私だけ なのだけれど

(誰も皆 遠くへ行ってしまったのだから)

大人になっているはずの私は
ただ立ち尽くす

子どもである私が 泣いていて

そこから少し離れたところ 敷石のすきまに
小さな菫の花が咲いているのを
大人になっているはずの私はふと気づくのだけれど

「ほら」とそちらを
指させばいいのかもしれないけれど

今はただ
立ち尽くしている




自由詩 とり残された春景 Copyright 塔野夏子 2018-03-31 22:27:25
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